彼女の秘密
僕らは拠点を作らないけど探索範囲を広げつつ、次のステージへの道を探す。
東へ西へと向かう先を変え、ドローンも活用しつつ地図を作る。
信綱と誾たちは洞窟を任せているので、この周辺探索には参加させていない。
火熊と戦うのは大きな負担がかかるので、無理はさせたくない。
なお、宝箱の方は探索時間を長く取ってしまう度に質が劣化するので、ステージ2の宝箱とは違いタイムアタックで質が向上するようである。
とは言え、「質=赤い岩の大きさ」で、変化が無いのが残念なんだけどね。
なお、宝箱を開けた時点で質が固定化されるので、持ち出したあとに劣化するという罠は無かった。
それと、このステージには山羊がいるので、山羊の確保も合わせて行っている。
火熊の数を増やした事もあり、土地はどんどん広げないと拙そうだ。餌の確保も含め、やる事がずいぶん増えている。
そうだ。ゴブリンを15人も外に送り出す事で、村の運営に問題が出たりもしたよ。
人が抜けた仕事は、誰かが替わりになる事は出来ても、誰でも出来る仕事であっても、結局は「替わった」事実一つで問題を起こす。
「私が死んでも代わりはいるもの」とは世の中を知らない人間の戯言なんだなぁと、つくづく思ったよ。
そうやって安定した状況で、134回目のアタックを終えた。
次回は≪神託≫が使えるようになるので、洞窟の先の情報を貰うのか、それともストレートにステージ4への魔法陣の位置を聞くのか。どちらにしようかと迷っている。
世界の危機の情報? 今のところ、あんまり興味は無いかな。
100年先の滅びなんて僕には関係ないし。約100年後に何かあるなら、その時代に生きる人に任せてしまおうと思う。
そうやって僕が「次」のことを考えていると、予定に無い来客があった。お国の使いで何度か顔を合わせた、いつもスーツ姿の役人さんだ。
「少々込み入ったお話があります。時間をいただけませんか?」
ゴブリンの件では無さそうである。
何の話だろう。
僕は疑問を持ちながらも、好奇心から深く考えず、頷いていた。
お役人さん、この人は工藤さんと言うのだが、彼がお話に選んだのは、近所の喫茶店である。防諜も何も無い席に座ったので、お国の機密とか、そういった難しい話ではなさそうでほっとした。
工藤さんはブレンドを、僕はウィンナーコーヒーを頼み、軽く唇を湿らせてから本題を始める。
「お話というのは、新田さんの交友関係です」
「僕の交友関係、ですか?」
工藤さんはかなり意外な所から話を切り出した。ジャブになる世間話などをすっ飛ばし、僕を睨むような、強いまなざしを向ける。悪い事などしていないはずだけど、ちょっとビクビクしてしまう。
しかし、僕の交友関係?
言っては悪いが、今の僕って人付き合いはかなり悪いよ。
恋人の小阪さん、冒険者ギルドのマスター、プレイヤー仲間数人。うん、大学にいた頃から考えると、桁が1つ違うよ。ヒッキーと大して変わらない付き合いの狭さだ。
「貴方の恋人の、小阪さんの話ですよ」
何の話だろうと困惑する僕に、工藤さんは小阪さんの名前を出し、僕は少しだけ状況を理解する。
彼女の交友関係か家族環境か。そちらに問題があるのだろう。親か祖父母あたりが北朝鮮の出身とかかな? 僕はその様に当たりを付ける。
「新田さんの立ち位置は我々にとって重要なのです。悪いとは思いましたが、彼女の身辺を洗わせて貰いました。
その結果、彼女の来歴に、新田さんに伝えておいた方が良い、重要な情報がある事が分かりました」
工藤さんは僕を睨んでいるんじゃなくて、僕に対し言いたくない事を言おうとしている。だから目がきつくなっているのか。彼の口がちょっとだけど「へ」の字になっている。
「彼女自身に問題はありませんでしたが、親が事業に失敗し大きな借金を作っています。その時に父親が闇金に手を出していまして」
工藤さんの言葉に反応し、僕の心臓が嫌な音を立てた。
「その借金の借り元である暴力団が」
ちょっと待って、そう言おうと思ったけど、口が動かない。
「貴方の家と土地を狙っていた組と、同じ系列の組織でした」
そんなはずは無い。
そう言いたかったけど、僕は何も言えずにいた。




