洞窟の先
火熊は洞窟が好きなのか、ホームに設置した山に穴を掘り、そこで寝ている。
だけど、動き回るのが好きなので昼間は外にいるんだけどね、ホームは狭いのでわざわざダンジョン『ゴブリンの森』まで遊びに行きたがる。
……一回連れて行ったら大興奮ではしゃいでいたんだよね。
「また連れて行って」と目で訴えてくる。
敵がゴブリン相手、1人だけなら問題ないんだけどね。
2人3人と数が増えれば不覚をとるし、森の敵ゴブリンって集団行動が基本になっているし。不安が残るんだ。
誰かと一緒に連れて行ってもすぐに走り出して単独行動をするし。まだ早いんだよ、連れて行くの。
もうちょっと、落ち着くことを覚えなさい。
今回の探索では霧狼を手に入れられず、火熊の相手をしながら現実逃避。
パワーだけなら僕以上。相手をするのは大変だけど、それでもいい気晴らしになる。
僕らと違い、信綱らは新しい成果があった。
今度は無傷ではないけど火熊を倒し子熊をさらに1頭追加。
さらに洞窟の奥へと歩を進め、宝箱を見付けている。そこで出てきたのはよく分からないこぶし大の赤い岩だけど、きっと良い物なのだろう。EPに換金すると100Pと出ていたし。
換金アイテムかもしれないけどね、しばらくは置いておくよ。
信綱たちはまだ時間に余裕があったけど、そこで洞窟探検を切り上げて帰ってきた。
ただね、この洞窟探検、そこで切り上げたのには訳がある。宝箱の中身を安全に運ぶためじゃないんだ。
誾が、その先に進みたくないと言い出した。
もともと、僕が洞窟探索に同行していないのは誾が「洞窟に嫌な感じがする」と言い出したのがきっかけだ。
その誾が進みたくないと言い出した以上、何かあると考えるのが自然だ。入ろうとした僕を止めるほどの嫌な予感は、今回の探索で確定した形になる。
「それで。どうする、長様?」
「そこから先に進むのはやめておこうか。宝箱が回収できるところまで進めるならプラス収支って事で、先は諦めよう。
もし、外から次に進め無さそうなら、その時は探索するけど。
今すぐにはその危険に足を踏み入れる必要は無いし、もうちょっと外で強くなってからでもいいよね。
誾はどう思う?」
嫌な予感がするのなら、あえて危険に足を踏み入れる必要はないと僕は判断した。
これまで「次のステージへの魔法陣」はそんな嫌な感じがしなかったというのを考えても、もしかしたら全く関係ない凶悪モンスターがいるだけって可能性があるんだ。
候補としては頭の片隅に置いておくけど、優先順位は下げてしまおう。
ただ、念のため誾に確認は取っておく。
本当に先に進まなくてもいいのかと。
誾の予感を受け入れて先に進まないわけだけど、その誾が「先に進むべき」という気持ちを抱いていた場合、様子見とかもした方が良さそう、なのかな。
最悪は静御前の≪神託≫で答えを聞くけどさ。
「はい。あの洞窟はこれ以上進むべきではありません。
進む必要は、無いと思います」
こわばった顔で答える誾は、嘘をついているとかではなく、単純に恐怖からそう言っているように思う。
んー。恐怖で判断が鈍っている気もするけど、まぁ、いいか。
僕らはこうして洞窟に見切りをつけ、「次」を探すことにした。




