表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーヴァーランダー  作者: 猫の人
クリエイション
256/290

ゴブリンを取り巻く世界情勢

 老人ホームの様子をうかがえば、ゴブリンたちが掃除をしていたり、老人が歩くのを支えているだとか、話し相手になっているなど、特に資格が無くてもできる事をやっているのが分かる。

 介護は言うに及ばず、料理を作るのには調理師だとか栄養管理師だっけ? そういった資格が要るんだけどね。

 でも、掃除や話し相手に資格は要らないんだよ。


 ……魔法も要らないと思うんだけどね。

 なんで魔法必須なんだろう。

 農業とか他の方で使いたいからだろうけどさ。



 僕は働くゴブリンたちを眺めていたけど、ついでにここの職員さんや入居しているご老人とも話をしてみる事にした。


「ゴブリンでもなんでも、人手が足りていないのでとても助かっていますよ。

 信じられないかもしれませんが、私、月に2回ぐらいしか休みが取れなかったんです。残業も月に100時間以上していました。ゴブリンさんたちが来るまでは。

 もう感謝しかありませんね。いなくなったら私も一緒についていきますよ、本当に」


「あー。ごぶりん? おお、緑色の子たちか。

 最近の若い子は変わっとるの。

 でも、みんないい子たちじゃ。ワシらの話をちゃんと聞いてくれるからの」


 今のところ大きい問題がないのか、わりと好意的な話が聞ける。

 というか、職員さん。それ、労働基準法違反ですから。勤怠証明になりそうな証拠さえあれば、訴えれば絶対に勝てるレベルの。


 よくこの施設を選んだよなぁ、国の人。

 この手の不遇系の人って、モラルハザードに曝されて意識が低くなっていると思うんだけど。





 ちょいちょい人と話をして、こっちで夕飯を食べてから僕は一人で帰宅した。

 移動の足は先にレンタカーを持ってきてもらったので、それを使った。


 普段あまり顔を合わせないメンバーとはいえ、施設にゴブリン(家族)を置いていくのは気が引けたけど、そういう契約なのだから仕方が無いんだ。

 僕自身、家から離れる気など無いのだし、あれもこれもと望んだところで叶う訳でもない。


 二度と会えないわけじゃないけど、滅多に面会の無い老人ホームに家族を置いていくって、すごく人聞きが悪いよね。



 そうやって帰ってくれば時刻は夜の9時を回っており、出来る事などほとんどない。

 ホームセンターでの買い出しも8時までの所ばかりだから、もう店が閉まっている。買い物はネット予約したうえで小阪さんにもその旨を頼んでおいたから、朝一で店に顔を出せば必要な物は全部梱包済みになっているだろう。



 お風呂に入ってさっぱりした僕は、ゴブリン関連のニュースをナナメ読みしてみる。


『アメリカ、ゴブリン以外も受け入れ対象に。異種族受け入れ法案を今月末に提出』

『未だ傷の癒えぬ北京、NGOの活動本格化。電力復旧のめどは立たず』

『まとまらぬEU。EU脱退のイギリス、ゴブリン問題で先行するか?』


 一番のニュースは、やっぱりアメリカの動きだろう。

 アメリカは大統領が強権を使ってでも受け入れ法案を通すと断言していて、「もしこの法案を通さないという議員がいるならば、どうやってオーヴァーランダーからゴブリンたちが来ないようにするのか、その具体的な法案を出すべきだ」と反対勢力に圧力をかけている。

 大統領の言っている事は間違いではない。防ぐ手段が無いのだから発見次第、根絶すると言ったところで、プレイヤーがいる限り確実にまた現れる。

 ならば国の監視下に置く、つまり国民にするというのは悪い手段ではない。下手に圧力をかけようものなら犯罪者として組織だって動くことも考えられるのだから。


 中国はテロの傷が癒えるまでは大規模な行動に出ることは無さそうだ。

 軍そのものに傷がついたわけではないけど、北京という中国最大の都市には大ダメージが入り、威信には大いに傷がついた形だ。

 それと合わせて香港で独立運動や民主化運動が盛んだというし、この国の先はよく分からない。

 中国全体で見れば、北京ひとつでどうにかなるわけじゃないけど、これだけ派手な「敗戦」では騒ぎになるのもしょうがないよね。


 あと、EUは意見が分かれすぎてまとまりがなくなっている。

 ゴブリンに人権を与えようという派閥でも、国に取り込むのか、他に独立国家を作らせEUに参加させるだとか、ゴブリンを認めようとも他の種族が現れたらどうすると、話がまとまらない。そこにゴブリン反対派の意見まで加わると収拾がつかない。

 全体を見れば「ゴブリンに人権を与える」「ただし国民にするかは別問題」という流れを辿りそうだ。明文化されるまで1年以上かかりそうだけど。



 さて、本丸たる我らが日本だけど。


『ゴブリンを受け入れるかの世論調査結果。受け入れないがやや優勢』


 完全に他人事の人が多いみたい。

 一言コメントが付いているけど、どこか島の一つに押し込め、様子を見てからの方が良いんじゃないかと言っているのはまだマシで、ゲームのモンスターなんだから殺してしまえという物騒な意見などもちらほら出ている。

 一般的なRPGのイメージが強すぎて、モンスター扱い、殺す対象という意見(偏見)がかなり強かった。


 この手の偏見、一緒に過ごすことでしか無くせないからなぁ。

 一緒に過ごしても上手くいくとは限らないけど、知らずに否定する人たちの相手は誰にもできないし、まずは教える、啓蒙活動からかぁ。


 思った以上に、日本も厄介だね。

 首相が肯定的だから油断してた、期待し過ぎていたのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ