老人ホーム
冒険者ギルドに顔を出したいけど、ゴブリン式老人ホームに顔を出すとか、今はいろいろと忙しいので2~3日後に顔を出そうと思う。
メールでそのことを連絡しておいて、スケジュールにもちゃんと予定を入れておく。
僕がそんな事をやっていると、ゴブリンたちは僕が何をやっているのか分からず、不安そうにしていた。
いけないね。スマホとか操作していると周りが置き去りになっちゃうよ。
向こうじゃほとんどやらない事だし、何をしているか分からないよね。
「長様。我々はこれからどうするのですか?」
「もうすぐ迎えが来るから、それまでこの家の中で待機だよ。っと、その前に着替えないとね」
僕は不安そうにしているゴブリンたちに指示を出し、〇ニクロの服を着させる。
それと緑の肌を隠すために専用のファンデーションで肌の色をごまかす。あとは用意しておいたカツラをかぶれば簡単にゴブリンだとは分からないだろう。
ここから車で移動するんだけど、簡単な変装ぐらいはしておかないとね。
余談だけど、この変装セットは国が用意したものだ。
僕の私物じゃないよ。
「お待たせしました」
変装を終えてもまだ約束の時間まで余裕があったので、軽くご飯を食べて待つこと1時間。約束の時間きっかりにお迎えが来た。
外に出ると、大きめのワゴン車が家の前に停まっている。
こういった大人数を運べる車は持っていなかったし、初めて行く場所という事もあり、迎えに来てもらったんだけど。
乗ってすぐに見つかったのは、エチケット袋。使用後を考えたのか、口をゆすぐ水や使用済みの袋を隔離するゴミ箱が備え付けられていた。
……用意周到すぎやしませんかね?
僕らの前に運ばれたゴブリンたちがいたはずなんだけどね? 何があったのさ、この車。
思いっきり事故物件じゃないか。
僕の内心は横に置き、車はどこか先へ向かっている。
関のICから高速に乗り、そのまま北の方向へ。
乗車してから大体1時間半ぐらい。ほとんど民家の無いエリアを走り、岐阜県民でもあまり聞き覚えの無いICから下道に戻ってすぐのところで目的地に到着。
「こんな、交通の便の良い所でいいんですか?」
「あまり奇抜なところに連れて行く方が目立ちますよ。それに、老人ホームの介護を頼むついでに農業にも手を出してもらう約束ですし、ここは何かと都合がいいんです」
僕は案内人の人に気になったことを聞いてみる。
すると、同じことを聞かれたことがあったのか、案内人さんはすらすらと僕の疑問によどみなく答える。
そして最後に、悪戯っぽく笑うとこう付け加えた。
「ここは交通量が少ないですからね。日に3台も降りる車はありません。怪しい人などすぐに分かりますよ」
僕はその話に苦笑するしかなかった。
こう、ICがあったとしても、使われない事もあるんだね。あんまり気にしたことが無かったし、使われそうなところを選んで作っていると思っていたよ。
やってきた老人ホームは「緑の館」という、どこにでもある、普通の老人ホームだ。
通常の老人ホームは人手不足が深刻なんだけど、ここにはゴブリンがサポーターとして参加しているのでかなり余裕があるらしい。
1000人ものゴブリンを全員ここに受け入れる訳じゃないけど、それでもここだけで100人は受け入れるという。それだけ人手が増えれば、そりゃあ仕事も楽になるというものだ。
「いえいえ、教える手間を考えると、ホームの人手不足は深刻ですよ。介護には資格が必要ですし、即戦力という訳にはいきません。
半数近くは農業に従事し、畑の方に行っていますね」
ああ、そっか。介護は資格が要ったんだよ。どこかの無免許医じゃないし、資格無しで仕事はできないか。
となると。
「みんな、資格試験を受けるんですね」
「もちろんです。人間もゴブリンも対等に扱うのが筋ですから」
特別扱いをしない、そういう事だね。
そうなると、老人ホームというのは割とすごい選択肢か。
お客さんである老人の管理は楽だし、情報漏洩の心配がない。スマホとか持っていないし。
職員の数は少なく、あとは身内があまり顔を出さないとなれば、管理も楽だろう。
そして資格が必要という事で勉強させれば知能を測ることもできるし、特別扱いしていないというアピールにもなる。
メリットが大きく、デメリットは少ない。
外に出て農業をやっている所に関しては、村の奥の方だから人目に付かないようだ。
こちらはリスクがやや大きいけど、魔法を使った農業というのに国が注目しているため、採算度外視でやっているっぽい。僕の主観だけどね。
でも、魔法が無くても機械で十分対応できるよね。わざわざ魔法に頼る理由は何なんだろう?




