進化条件
信綱が死んだと聞かされ、僕は急いでサーヴァントの復活コマンドを使う。
誾の時と同じく、EPたったの10Pで蘇生される信綱。
そうして甦った信綱は――姿が変わっていた。
誾のようにほとんど違いが分からないという事は無く、キズナのように人型のような劇的な変化をしたわけでは無い。
ただ、全身緑だったのが、赤銅色の両腕を持つようになっていた。
また、全身がより筋肉質になると同時に、特に色の変わった両腕は岩のような質感へと転じている。
表示された種族名は『ハイゴブリン・ヴォルケイノ』。
ヴォルケイノは噴火とかそういった、災害の名だ。ハイゴブリンの方は、単純にゴブリンの上位種という意味だろう。
推測する必要も無いほど分かりやすい。火と土の属性を強く持つゴブリンの上位種という事だ。
スキルの方も≪溶岩魔法≫≪火砕流≫が追加されており、アビリティには≪灼熱耐性≫≪溶岩の腕≫が追加されている。そのまんまだねぇ。
「長、迷惑をかけた」
「いや、いいんだけどね? それよりも進化したけど、体の方は大丈夫?」
「――問題ない。体は動く」
信綱は体を起こすと、僕の方を見て頭を下げた。死んだ事を詫びているらしい。
だけど僕はそんな事よりも、進化した事の方が大事だ。信綱の体の様子を心配する。
しかし信綱の方は、進化した事を全く気にしていない。
今度は立ち上がると、体を軽く動かし、違和感が無い事を確認して、問題ないと言い切った。
腕のサイズとか、体のバランスはずいぶん変わったと思うんだけどね?
何で問題ないのさ。
いや、問題ない方が良いんだけどね。
信綱が進化した事について、僕はいくつかの推論を頭の中に思い浮かべる。
理由はいくつか思い浮かぶけど、一番の理由は「蘇生コストと能力の齟齬」じゃないかな。
ぶっちゃけてしまえば、ゴブリンのままでいて、たった10Pで蘇生できるというならコストパフォーマンスが良すぎるんだ。
信綱クラスのスペックを持っているなら、それに見合う種族に作り替えて蘇生コストを多くしようという事だろう。
確認は出来ないけど、次は10Pで済まないぞと、そういう事だ。
富岡さんのゴブリンに進化したのが多いのも、それが理由なんだろうなぁ。
「そうなると、一回死んでみたくなりますね」
「駄目。却下。絶対許さないかなね」
「戦力の強化になりますよ?」
「それでもだよ。簡単に死ぬとか言って欲しくないし、命を軽んじて欲しくない。
たとえ、生き返るとしても、ね」
信綱が進化して生き返った事で、同じように進化した誾が「死による進化」をもっと試してみようかと提案してきたけど、強い言葉でそれを蹴り捨てた。
まだ確定じゃ無いし、確定で死ねば強くなると分かっていたとしても、みんなに「死ね」なんて僕は絶対に言わないよ。
生き返るかどうかは重要じゃ無いんだ。
強くなる事も余録というか、割とどうでもいい。鍛えれば強くなれるんだし、わざわざ進化に頼る気は無い。進化したらラッキー、その程度の気持ちでいたい。
命の対価にしては安すぎる、僕はそう考えている。
死んだ事が与える心への影響が読み切れないし、みんなの命を物のように考える僕など要らない。それは絶対に嫌だ。
「しかし、まぁ。死んだら強くなるとか、どこのシャーマ○キ○グさんだよ」
昔読んだ漫画に、死んだら強くなる連中がいたよ。死んでも生き返るトンでも系。ドラゴンな球のバトル漫画とか、少年漫画ってそういうネタが多いよね。
……あと、「小説家に○ろう」の主人公も同じか。死んでチートを貰うわけだし。
それなら、死んだら終わりな僕は主人公になれないって事だね。
たった一つの命なんだから大切にしないといけないよ。




