日常に帰る
お国の一大事とか言われてしまったけど、僕は今のところ引退する予定など無かった。
ただ、本当に言われた通り引退したとしても、あまりデメリットが無かったのも本当の事なんだよね。みんなとはずっと一緒にいられるし。
なんでわざわざ僕に引退を勧めたのかと言うと、ゴブリンをサーヴァントにしているプレイヤーで、僕が唯一恋人持ちだというのがその理由だった。
……あの場では僕が一番の若造で、一番稼ぎが少ないプレイヤーなんだけど、恋人の有無とそれは関係なかったみたいだ。
いや、恋人を作ろうとする意思が無ければ、条件のいい男であっても女は動かない事もあるんだけどね?
アタック122回目。
信綱らによる『火熊』討伐は新しい服などが届く次回に持ち越し。
とはいえチーム編成はいじらず、そのまま続行。
人の変更は最小限が人事の基本らしいからね、現場が混乱することはしないよ。
僕らはちょっと遠出をして、一泊してから更に先に進もうと思っている。
あの洞窟は1日で行ける範囲にあるし、きっと宝箱などはあっても次のステージやフロアへの魔法陣など無い可能性もある。
そういうのは2泊ぐらいした先か、大集落のような分かりやすい難所にあるものだ。
火熊が出てきたので今のところ可能性はトントンだけど、あの洞窟が正解だと決めつけるのは良くない。
僕らは僕らで、引き続き外の探索をするのだ。
一泊するという事で、僕らはいつものように、拠点造りを行っている。
スコップだけでやっていた頃とは違い、≪土魔法≫があるからずいぶん寝泊まり用の拠点を造るのも楽になっている。
魔法抜きだと6日は必要な作業が1日で終わるのだから凄い。
もっとも、どれだけ魔法が便利だろうが人力が必要なところは残っている。
僕らの魔法はまだまだ未熟な部分があるので、魔法だけでは完成しないんだ。
壁を作っても、壁と壁の隙間がある。そこを綺麗につなぐのは人力だ。
天井は必要だよね。魔法で天井は出来ないので、近くの木を伐採して板に加工し、天井にした。あとは固定化してしまえば、何年経っても使えるようになるのでわざわざ水分を抜く必要もない。
床の方も、きれいに均さないとダメだ。土のままでは体温を奪われるし、だから板を敷いたりするんだけど、その前に土の床をきれいに均さないと、感触が変になって気持ち悪い。
そういった事は魔法でやるより人の手でやったほうが早かったりするんだよね。
付け加えると、魔法だけで全部やると魔力が持たなくなるって事情があるし、魔法だけでやると体が鈍りそうで怖いから。
人間、ある程度は体を動かした方が良いんだよ。
「いや、ここに来るまでに体力使ってますぜ、長様」
「それは分かるけどね。でも、細かいところは人の手の方が確実でしょ」
「そうなんですけどねぇ。まぁいいです。橋を作るよりはマシってなモンですから」
山の中でも、たまに平らな場所がある。
その平らな場所でも特に霧の薄い所を狙って拠点を造った。11人全員がゆっくり眠れるスペースだ。
ついでに猪を探して狩り、1頭だけだが固定化したので、食料の方もこれで問題ない。
あとは水が欲しいけど、こんなところで井戸を掘る趣味は無いし、これは近くの川の水を汲んで使えばいいか。煮沸消毒とろ過器でろ過をすれば飲めるようにはなるだろう。
最近はお腹が強くなったのか、ゴブリンたちは煮沸してあれば飲んでもお腹が痛くならなくなっているけどね。
そもそも生水とか、僕は飲まないけどさ。
ハイペースで拠点ができるんだけど、それを固定化するのにEPを結構使っちゃって、わりとカツカツ。
5人を日本に送り込む分は残してあるけど、本当にあとはそれぐらい。
そろそろ村も広げたいんだけどね。なかなか思うようにはいかないよ。




