洞窟
お国の要請も大事だけど、ダンジョンの攻略だって大事だ。
同じことを延々と繰り返していては、今のままの規模から成長できない。前に進み、収益を増やし、もっともっと、村を大きくするのだ。
伝手ができた僕はゼロからの開拓者ではなく、富田さんとかが切り開いた道を征く次の世代、後継者だ。
その全てを受け継ぐわけではないが、僕なりに全力を尽くしていこうと思う。
橋の建築が成功したことで、その手順がマニュアル化された。
それ以前に、向こう岸に誰かが渡れるんだから、別なところに新しい橋を作ってもいい。
その場合はまたEPが必要になるからしばらくは無理なんだけど、交通の便の良さそうなところに新しい橋を作るというのはアリだろう。
時間の節約は経費節約なのだ。ぜったに無駄にならない。
とは言え、今は新しい土地を歩き回る方に忙しい。
僕らは橋の向こうの山を探索していた。
「新種のモンスターは、今のところ見当たらないね。
……こんなものなのかな。もっと先に進まないと新しいのは出てこない?」
「いえ、まだ見付かっていないだけかと思います。
『骨の迷宮』では半日近く移動してようやく次のフロアにたどり着きました。そして新しいモンスターと戦う事になったのです。
ここのステージに当てはめるなら、不慣れな今は1日分の移動をしてみない事には、まだフロアが変わらないと思われます」
新しい土地になったとはいえ、川一つ越えただけで環境が激変するという事はない。
見慣れた木々が生えているし、出てくるモンスターは霧狼と木蛇がメインでたまに灰鷹ぐらい。
何か新しい発見が無ければ収入が変わらないので、僕は面白くないといった気分だ。
だからと、そのことに僕が不満を漏らせば、誾が自身の推測をもとに変化がない理由を説明する。
誾としては、この世界が作りものである以上は、意図され攻略できるように難易度設定がなされているはずで、ここまでのバランス調整の癖から、ある程度敵の配置などが予測できるという。
言いたい事は分かるけど、その手のメタ思考はたまに落とし穴があるから好きじゃないんだよね。こっちの予測を利用してのハメ技的な何かしらの罠とか。
全く考えずに動くのも効率が悪いだけなんだが、まぁ、僕はあまり気にしない。
いや、そもそも、僕が変な愚痴を漏らしたのが悪いんだけどね。
行軍中に私語とか、山歩きをなめてかかっちゃいけないよね。
僕は誾に謝ると、軽口など叩かず、移動中はいつものようにハンドサインでの指示をするにとどめるのだった。
そんな事を間に挟みながら、橋を渡ってから山を歩くこと1時間。最初の洞窟から数えて5時間が経過したところで変化があった。
「長様」
「うん。洞窟だね」
山肌にぽっかりと開く、結構大きめの洞窟。
中をのぞきこめば、鍾乳洞っぽい、カチカチの足場とつらら石。
ライトで奥を照らせばその先は見えないほど深い。
ええと、天井から垂れているのはつらら石、鍾乳石などで、材料は石灰岩だっけ?
建材に使えるんだったかな。
うん。
いい感じに変化があった。
何か面白いものがありそうだね。




