移住説明会
国がゴブリンたちに求めた仕事は畜産業とか1次産業がいくつかあったけど、その他の一つ、重視しているものの中にある「老人介護補助」というのは、僕らにとってかなり意外だった。
現状、国が推進する介護医療はその専門性と労働量に比べ、なり手が少なく薄給であるので、ゴブリンにその補助をお願いしたいというのが国の意向だ。
だったら何に魔法を使うのかと思っていたら、こちらの返答もまた、意外なものであった。
ゴブリンの、自衛のためである。
国はゴブリンの存在は隠匿できないと考え、ならば先に限定的ではあるが情報を開示し、理解を得る方向で話を進めるようだ。
また、その時に「このゴブリンは魔法を使えるのだが、人として扱わなかった場合、人の法で縛れなくなるが、中国の様にその対価を支払う覚悟はあるのか」と反対者に説明するようである。
当たり前だけど、何かあればこの話を進めた国の責任問題につながる。
先ほどの言葉だけで止まる人はともかく、「自分だけは大丈夫だと信仰している屑」は絶対に何かやらかすだろう。
そして愚か者が対価を支払った後。その責任を国に求める動きが発生するのは避けられない展開である。
何を考えたらそんなリスクを背負うのかと聞いてみたけど、これについては秘密だと、機密だったかな? とにかく、答えてもらえなかった。
ただ、ゴブリンたちにはその時が来た場合、適切に処置して構わないという言質をいただいた。もしそういう事になったとしても、そのゴブリンを処罰することは無いというお墨付きを、だ。
むしろ、あの言い方はやっちゃって欲しいと考えているようにすら感じる。
……微妙に、裏のある話に聞こえるんだけど、国はどういう解決策を考えているんだろうね?
アタック117回目。
移住の話を聞いてすぐのアタックである。
僕はゴブリン一同を集め、「日本への移住」を国から求められている事をみんなに説明した。
ノルマ、1月後までに50人という数については言わない。言ったら揉め事になりそうだし、変に気負いそうなネタは無くていいと思う。そこはみんなの自由意思で決めてほしい。
ただ、念のために信綱と誾にだけは話を通しておいた。
「50人も抜かれたら村が維持できなくなりますね」
「オサ、稼ぐの、難しい。が、それ諦めれば何とかなるぞ」
二人とも、ノルマの50人は不可能だと、僕と同じ考えに至っている。基本的な考え方は僕から学んでいる二人だけあって、こういう場面では意見の齟齬が出にくい。
人はそれを、一人で悩むのと大して変わらないと言う。
大量に人を抜くというのは、ちょっと前のやり方に戻せば済むという話ではない。
一度作り上げたシステムは壊してしまえばゼロからの構築をする必要があり、むしろ前のシステムを知っている分だけやりにくくなる。全くの新人だけで新しいシステムを組み上げる方がよっぽど楽だ。
やってみないと分からない、と言われそうであるけど、人の配置とかはゲームの様に動かしたらすぐ何とかなるってものじゃないのは、僕はこれまで何度も経験してきたから分かるんだよ。
だから、「移住を命令すれば」若手を中心に30人は抜けるだろうけど、「希望者を募り」50人は絶対に無理。
このままだと、頑張っても15人ぐらいしか引き抜けないというのが、僕らの結論。
「私も、日本には行ってみたいんですけれど」
「誾、お願いだからやめて!?」
当たり前だけど、中核メンバーは動かせないよ。
だから信綱も期待した視線を向けないで。




