体調管理
僕らのドリルは、地面を穿つドリルである。
今のところ、山に洞窟を作るため、≪土魔法≫で穴を掘っている。
昔はスコップで頑張っていたけど、今は魔法でどうにかするのが主流である。
杖さえあれば建機で作業するかのようなペースで地面がへこむからね。使わない手はない。
「長様。深部は深さ5m、高さ3m、10m四方の部屋になります。
これでよろしかったでしょうか?」
「うん。室温はどんな感じ?」
「22℃です。外気温34℃と比較し、マイナス12℃。かなり涼しい、いえ、肌寒いですね」
「これなら大丈夫かな? あとは換気の問題だけだね」
「多くの者を連れてくれば室温が上がります。そちらの対策も必要かと」
「あー。そうだね」
山に穴をあけ、洞窟を掘らせてみた。
ゴブリンは≪暗視≫アビリティを持っているので、暗い所でも大丈夫。魔法が使える上に照明が要らないので、ドワーフよりも穴掘りに適しているかもしれない。
穴掘りだけで、採掘は苦手かもしれないけど。
ちなみに、この洞窟は休憩所というか、療養所として使う。
ステージ3で働く連中の、体調が思わしくないというのがその理由。
気温差にやられ、多くの仲間がダウンしているのだ。
さすがにこれを回復薬で治そうとは思えなかった。誾の≪回復魔法≫が効かなかったので、効くかどうかも分からないけど。
「鰻のかば焼きが薬になると言いますが、量が足りません。漁師も足りません。食事療法だけでは、防ぐことは不可能です」
「夏野菜のいくつかは確かに夏バテには効きますが、気休め以上の効果はないのでは? いえ、私が野菜を苦手にしているという訳ではありませんが」
ダウンしたのは、ゴブリンが50人にオークが10人ぐらい。
ステージ3で頑張っているメンバーのほぼ全員である。
そして重症な感じのする、症状の重い者は、そのうち8人。前回の、アタック111回目の時にそれだけの人数が倒れてしまった。
割とシャレにならないし、これが日本の会社なら潰れてしまうかもしれないほどの大失態だ。
困ったことに、夏バテで全く動けなくなるほどひどい症状ではなく、ちょっと食欲がないとか、疲れやすいとか、その程度である。
その為、対応が遅れてしまった。
夏バテではなく熱中症の方に気を使わなくていい現場だっただけに、注意の仕方が甘かった。
いや、言い訳だね。戦闘の怪我以外を、甘く見ていた。
もう少し、自分の周りにいるゴブリンたちの顔を見るべきだったよ。
いつもと違う環境で仕事をしているのだし、体調を崩しやすくなるとは気が付いていたんだけどなぁ。
僕もまだ、経験が足りないね。




