橋①
さすがに世界大戦は、無い。
ただ、もしも「オーヴァーランダーが無かったら」と考えた場合、実は、その可能性は少しだけあった。
簡単に言ってしまえば、人口問題があったからだ。
もともと、それまでの地球人口は70億を数え、そこに至るまでの人口増加曲線はここ100年で4倍ぐらいに増加している。
もしもこのペースで人が増えた場合、次の100年には200億を超えてしまう計算になる。
ただし、近年の人口増加率は減少傾向にあり、地球人口は80~90億程度をピークに減少傾向に移り、200年先には30億まで減少し、300年後には10億人にまで減少するのではないかとまで言われている。
このあたりは土地に出生率と死亡率のバランスを取る為の本能的なブレーキと言われているが、細かい話は知らない。もしかしたら本能レベルで、人間という種が何らかの終わりを迎えてしまうのでは無いかという考えもある。
つまり、世界という器を超えてしまった人類の本能が出生率ゼロを命じかねないわけだ。
そこでオーヴァーランダーという「死亡率を高める装置」があれば、人類の出生率は人口を維持できるように、再び増加傾向に戻る、かもしれない。
あと、別の誰かの予測だけど、VRゲームが社会に現れ、そのまま人類は終わりの無い夢の世界へ旅立つ、そんな話もあった。
これはこれで、あり得そうな話のようにも聞こえる。
その場合だと、オーヴァーランダーがどのような影響を与えてそれを阻止するかは分からないけどね。
オーヴァーランダーが世界に、人類にどんな刺激を与えたのかは知らないけど。受け入れて人類存続が叶うなら、特に問題ないんじゃ無いかな。
そんなわけで、いつものようにアタック106回目。
次回の≪神託≫は135回目という事で、それまでは普通にアタックをする。
「長様。こちらにある川を、もっと深く、流れを早くできないものでしょうか? ここでの水練で≪水泳≫スキルは手に入りましたが、あの川に挑むには力不足のようです」
「いや、≪水泳≫スキルは保険だからね。基本は橋の建築だよ」
「橋、なんとかなるのでしょうか……」
「なる、と思いたいね」
現在、≪水泳≫スキル獲得と並行してやっている橋の建築準備。
はっきり言って、橋の建築はかなり不安が残る状態だ。
僕らの技術力のなさが、完全に露呈していた。
僕らが作ろうとしているのは吊り橋なんだけど、これ、思った以上に大変だった。
まず、ロープの強度が問題だ。
最初に橋を作る所にロープを渡し、それを伝って向こう岸に渡る気でいたんだけど。そこからもう「できない」という答えが返ってくる。
鉄球を使えば20mどころか30m先にロープの先端を持って行く事は可能なんだけど、それを伝って移動というのがまず無理だ。向こう岸の木にロープを引っかけるなんて技は、僕らの誰もが持っていない。
ゴブリナこと、キズナの≪植物武器化魔法≫もこういったことには対応しきれない。
「強度はともかく、しなりまではどうにもなりませんの」
どうしても途中で折れてしまう、折れなくてもしなりで乗っているやつが川に落ちる。
≪氷魔法≫で氷橋を作る案を試してみたけど、向こう岸に誰かいないと、何らかの固定を行わないと、そこから崩れるという残念な結果に終わった。
もしも向こう岸に誰かたどり着く事ができるなら、最初の問題は解決する。
川の表面を凍らせつつ移動する事も試したけどね。途中で流れに足場を砕かれ、かなり流されるという結果に終わったよ。
「ドローンでどうにかできませんか? こう、ロープを木に括り付けるぐらいならできそうです」
「櫓を組み、そこから誰かを飛ばすというのはどうでしょう? 走って飛んでも届かないでしょうが、高いところから、こう、ブランコの要領で遠くまで飛ぶ事は可能だと思うのですが」
「いっそ、20m先に届く一枚の板を用意した方が早いかもしれません」
「筏が完成しました! 急流でもきっと壊れません!」
まだまだ試す案はあるんだけどね。
もう一つの問題が解決しないと、不安はかなり大きいよ。




