≪神託≫(後編)
何年後かは横に置き、世界滅亡とか人類絶滅とか、そういった未来というのは驚くほどの事ではなかった。
変な話、僕らプレイヤーの中にはそういった可能性を指摘する声が多くあり、感想としては本命が来たという程度の話でしかなかった。
そんな、人類滅亡を告げられても驚かない僕を見て、静御前は「本当にこの人は事の重大さを分かっているのだろうか?」という顔をしている。
分かっているけどね、100年後なんて、絶対に僕は生きていないし。
まだ結婚しておらず、当然子供もいないのだから、どれだけの事だろうと当事者意識なんて全く無いんだよ。
プレイヤーでいる以上、100年後に生きている可能性は確実に0だからね。
それよりも、だ。
静御前の言う「地球人類絶滅の回避など」の、「など」の部分が引っ掛かるんだけど?
「あ、はい。
それについては、運営の方も一枚岩ではないという事です。
私に対し説明を行った運営は、10人以上いました。つまり、それだけの陣営がそれぞれの思惑を持って運営に関わっているという事です。
オーヴァーランダーは人類救済を掲げて始まりましたが、そのコストはかなり大きく、個人レベル、一企業レベルの体力では成し得ない規模になるそうです。
そうやって多くの人を集めた結果、それぞれの思惑を叶えるためのシステムが組み込まれ、いろいろとちぐはぐな調整がされたようです。
本当に、ただ救済をするだけならば。
ゲームのようなこういった形式にする必要はなく、今の状態は実現性と理念の妥協案といったところですね」
うーわーー。
凄く厄介な話が出てきたね。
というか運営さんの種族も、人のしがらみというのから逃れ得ない種族なニオイがしてきたよ。
種族的に人類以上になったところで、意思疎通が完璧に行えるようになったとしても、利害の対立や調整は必須なんだろうな。
感情論は理性を超えるからね。万事が「理」と「利」だけで動くはずも無いか。
その後、どうやって人類が滅ぶのかとか聞いてみたけど、そういった情報は必要ない、質問の本義とは外れるという理由で聞かされなかったようだ。
人類救済にどう繋がるのとか、そういった情報もない。
単純に、「なんでやったのか」という点だけを説明されたのである。
僕は次の質問を「オーヴァーランダーによって世界がどう変わっていくことを期待しているのか」と聞くべきか考え、本当にそれは自分が聞かなければいけないのかと思い直した。
もともと、僕が運営に理由を問いただしたのは、僕がいつまでオーヴァーランダーを出来るか、それが気になったからだ。
ならば次の質問は「いつまでオーヴァーランダーをできるのか」とした方が良さそうだ。
ここの運営、下手に回りくどい聞き方をするより、ストレートに知りたいことを聞いた方がはっきりしそうだ。
言葉による駆け引きの無さそうな種族だからね。
それはそうと、僕は静御前に大事な質問をすることにした。
「僕がまた≪神託≫を使ってほしいって言ったら、耐えられる?」
静御前の意思確認だ。
今回のようなとんでもない負荷がかかる仕事を、本人の意思を無視して無理やりやらせるのはアウトだと思う。
彼女は奴隷ではない。自由意思を持つ従者なのだ。
僕の質問に虚を突かれた静御前は、微笑んで「大丈夫です」と答えた。




