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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
デストラクション
228/290

≪神託≫(前編)

 アタック105回目。


 ちまちまと準備や訓練をはじめて数日。

 まだ主力メンバーの≪水泳≫の習得ができていなかったり、橋に使えそうなロープの作成が終わらない状態だけど、今回は大きなイベントがある。


 すっかり忘れ去られかけていた≪神託≫スキルの解禁日である。

 リアルだけで30日、体感で210日という長い待ち時間を経て、ようやく使用準備が整ったのだ。




 ≪神託≫スキルは運営に対し、一つの質問を投げかけ、それに回答をもらうというスキル。

 どこまで答えが返ってくるかはランダムなので、質問は検討を重ね、慎重に決めてきた。



「静、準備はいいな?」

「はい。いつでもできます」


 今回使う≪神託≫スキルそうそう滅多にない一大イベントなので、ホーム前の広場にほぼ全員が集まってこれから何が起きるのかと、不安気にしている。

 僕自身、これから聞く事が、本当にそれでいいのかと不安になっていたりする。


 神託を賜るオークの内政官、静御前は逆に落ち着いた様子。

 覚悟が決まっていると言う他なく、波ひとつ立たない水面のような静謐さで事に臨んでいる。

 これからやろうとしている事の重大さを理解していないわけではないだろう。周囲の持つ未知への恐れを意に介さず、日常のような軽さは感じない。決戦に挑む前の戦士のような気迫を感じてしまう。

 その雰囲気に、僕が気圧されてしまいそうだ。


 そんな彼女は僕の趣味というわけではないが、巫女さんの格好をして玉串のようなものを手にし、キャンプファイヤーこと護摩壇(ごまだん)の前で正座をしている。

 ……オークだけどね!



「では、静御前は≪神託≫スキルの使用を。

 質問内容は“オーヴァーランダーを始めた目的は?”だ」

「神に問います。“オーヴァーランダーを始めた目的は?”」



 今回、質問の内容はいろいろと考えた。

 他の人にも相談した。


 そして出した答え、聞くべき内容が「運営がオーヴァーランダーを始めた目的」を知るというもの。



 僕ら人類は、この2年と少しの間、オーヴァーランダーに振り回され続けてきた。


 始まった当初は大勢の人が死んだし、死んだ誰かの穴埋めに奔走してきた。

 しばらくすると経済の不均衡、持ち込まれたアイテム類の広げる波紋、カネと利権は新しい秩序を作り上げていく。

 そこで今度はゴブリン持ち込みによる大混乱だ。

 世界中がオーヴァーランダーにより未来予想図を大きく狂わされている。



 いったいオーヴァーランダーの運営は何がしたかったのか。

 この結果を、今の世界を求めていたのか? それともこの状況は運営にすら予測できなかったものなのか?

 それとも運営が考える未来は、まだこれから訪れるものなのか。


 その答えが今日、出るかもしれない(・・・・・・)





 静御前が≪神託≫スキルを使うと、彼女の全身が天より降りてきた光に包まれる。

 光はまるで柱の様に質感を伴い、近くにいた僕が弾き飛ばされた。


 僕は尻もちをつきながらも見た。

 光の中で姿が見えなくなりつつあった静御前は、最初は目を閉じただ祈りを捧げているように見えたのだが。

 だが、完全に見えなくなる寸前。


「あ、ああぁぁ」


 目を見開き。


「あああぁぁぁ!!!!」


 頭を抱え、腹の底から、痛みや苦しみから来る叫び声をあげた。

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