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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
デストラクション
222/290

愚者の黄金

 中国人民軍とは、日本の自衛隊と比較し、非常に行動が早く自由裁量が大きい。

 これは国家防衛に対する国の意識の差であり、何かあればアメリカ任せ、自分たちは責任を取りたくないという日本の政治家との差であった。


 しかし、問題発生からほんの数日で爆撃機が、国内にいる害獣(・・)駆除(・・)に乗り出すというのは異例の事態だった。





「本当に避難しないのですね」

「もちろんですよ、女王陛下」


 中国内部に作られたゴブリン王国。

 そこにいたとある人権活動家の男性は、ゴブリンの女王に対し笑顔を見せた。



 事の起こりは、ほんの1日前。

 中国の軍人から、害獣駆除(・・・・)を行うため、該当地域から逃げるようにという通達があったところから始まる。

 簡単に言ってしまえば、中国からゴブリン王国に宣戦布告がなされたのである。


 中国政府がゴブリンの事を害獣と称し正式な宣戦布告を行わないのは、ゴブリン王国が国連で認められた正式な国家でない事実に加え、ゴブリンに人権を認めていないことに起因する。

 彼らの認識では、中国国内にいるゴブリンはただの野生動物であり、行政はそれを駆除する権利を有している。たとえ生きていようと、日本で誰かのペットを殺したときに器物破損が適用されるように「もの」扱いなのだ。



 この発表が行われたのは、そこに不法滞在(・・・・)している外国人向けの対応だ。

 そもそもゴブリン王国への滞在そのものに中国政府の許可が出るハズもなく、国の命令を無視しそこにいる以上は殺されても文句は言えないとはいえ、最低限の人道的配慮はしたという形式を整えるためだ。

 これにより公式には、ゴブリン王国に人間が滞在していようと反国家的なテロリストとして処理できることになる。

 そして、その考えは国際的に考えてもあながち間違っていないわけだが。



 この情報が本国経由でゴブリン王国に届けられた時、ほとんどの人間はゴブリン王国を脱出することをしなかった。

 こうなる可能性は最初から考えており、実際はもっと後に行われるだろうと予測していたが、予想外でもなかったからだ。

 彼らは最悪のケースとして、自分たちの命を武器に、国際社会を動かす気でいたのだ。





「女王である私が国と命運を共にするのは使命です。ですが、貴方たちは違う。どうか、命を粗末にしないで下さい」


 ゴブリンの女王は、知己を得、友誼を交わした人間たちに、死んでほしくなかった。

 簡単に殺されてやる気は無かったのだが、それでも人間の戦闘機や爆撃機に勝てるとは断言できない。巻き添えで彼らを死なせる可能性は十分にあった。



 しかし彼ら人権活動家も、彼らなりの“誇り”が存在した。


「私たち人権活動家は、多くの場合において嫌われ者です。

 守るべき命を守ろうとすれば法を踏み越えていかねばならない事も多く、そこに理解を求めても聞き入られることはあまりに少ない。罰せられることがほとんどです」


 人権活動家の活動とは、誰かの権利の侵害だ。

 誰かの権利・利益を損なう事で命を救う活動と言っていい。


 人権活動家とは、ヨーロッパにおいて一定以上の地位を有していたり、財力に余裕がある者も少なくはない。

 が、大半はただの一市民であり、一般人だ。どこにでもいる、普通の人間なのだ。

 何かしたとしても、身を守るすべを持たない場合もある。警察のお世話になる事が何度もあった。


 そして、悪者にされるのだ。



「私たちには、私たちの通すべき筋がある。

 ここで逃げては、私は人権活動家として二度と胸を張って生きていけなくなるのです。


 何かの命を守るために自分の命をないがしろにする行動は、愚かに見えるかもしれません。

 ですが、命の燃え尽きる最後の一瞬まで、私たちは私たちの主張を貫く姿勢を世界に見せつける事には意味があるはずなのです。

 それを見た、知った誰かの通る道を繋ぐ。後に続いてくれる誰かがいるのですから」


 彼らの言葉に女王は頭を下げ、ともに歩む同胞として感謝を示すのだった。

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