本気の≪闘気≫スキル
魔法に対する抵抗力も上がらないし、『闘気』とはいったい何なのか。
その謎を解明するべく、僕は出雲の5匹を連れて迷宮へと向かった。
迷宮の中は基本的に涼しいので、≪氷魔法≫の出番は無い。植物も苔ぐらいしかないので、≪樹木魔法≫の出番も無い。
まぁ、この2匹は他にも≪火魔法≫とか≪土魔法≫が使えるのでフロア1ぐらいなら普通に戦えるんだけどね。
そして戦闘面では一番残念な≪診断≫持ちはお留守番。代理で誾がパーティメンバーに交じっていたりする。
フロア1の白ゴブリン相手なら、蔵馬の≪神聖魔法≫の出番はないので、通訳ができて≪回復魔法≫持ちの誾の方がいてくれて助かるのだ。
「キュー……」
「やっぱり効果が分からない……」
「変化があるようには思えませんね」
僕らが白ゴブリンと数戦する間、誾には僕らを客観的な目で観察するようにお願いしておいた。
もちろんビデオカメラを片手に、だ。
普段はやらない近接戦闘による白ゴブリン制圧は、スキルをON/OFFしつつ何度も繰り返された。
そうやって本人の自覚、ともに戦う戦友の負荷、外から見る第三者の視線で≪闘気≫スキルを評価したわけだけど。全く、何一つ、変わるところが無かったように思う。
もしかしたら変化が微弱なだけで、誤差レベルで強化をされている可能性の方が高かったりするのかな?
もしくは今みたいな「闘気を纏う」のではなく、目的意識をもって「闘気を身体強化の為に纏う」必要があるのかもね。
つまり、結論は『何も分からない』となる。
しばらくは熟練度上げかなー。使い倒していけば、そのうち何かわかるかもしれないし。
こっちも魔法の杖みたいなブーストアイテムがあれば分かりやすいんだけどな。
ずっと迷宮にいてもしょうがないので、迷宮探索を時間で切り上げる。ホームに戻ることにした。
帰りの道中に敵は出ない。行きに敵を殲滅していったのだから当然である。
しかしホームに続く出入り口の魔法陣近辺で、僕らの後ろにゴブリンの気配が。最後尾、僕の後ろ≪闘気≫ゴブリンに何かを投げつけた。
≪闘気≫ゴブリンは咄嗟にスキルを使い、闘気を体に纏わせる。あとはボクサーの様に腕を上げて首や頭部を守る。むしろ肉の〇ーテン?
危険を感知したら急所を守る。この辺りの反応速度はさすがだ。ホームでやってきた訓練の成果だろう。
避ける事もできるだろうけど、僕に当たるよりも自分の身を壁にしようという判断。
この、「いざ」って時に僕を守ろうとできるのは嬉しいね。
一瞬の判断で動く状況。緊張感が走り。
そして、≪闘気≫ゴブリンの腕にペチャっと泥団子がぶつかった。
ただの泥団子だけど、当たればそこそこ痛いはずである。
そして物陰からただのゴブリンが出てくる。白ゴブリンではない。
「誾。今のはどう見る?」
「さすがにこの位置からでは判断しかねます。グ、ギュイ?」
「キュー、グギャ? メキャ?」
「グー、グー、グー。長様。何か当たった事は分かったようですが、痛みなどはないそうです。
あと――今の泥団子の、説明が欲しいと」
今の泥団子は、≪闘気≫ゴブリンの本気を引き出す芝居である。
考えるというプロセスを抜きにして、本能だけで使わせたら何か変わるかな、と思ったのだ。
結果は上々。熟練度か真剣さか。とにかくこの実験により、≪闘気≫の有用性が一つ判明した。
あとは同じ結果を、ホームの訓練でも引き出せるようになってもらうだけだ。
今回の実験の結果、≪闘気≫スキルは意識的に防御力を増す使い方が判明した。
が、≪闘気≫ゴブリンの機嫌は、しばらく悪いままだった。




