ゾンビスレイヤー、あるいはバールのようなもの
新しいフロアをしばらく歩くと、すぐにゾンビが見つかった。
数は三体で、他のモンスターは見当たらない。とてもいいカモだ。
「全員、戦闘準備。魔法は温存で」
僕は小声でみんなに指示を出す。
ここのモンスターは音に反応するという事は無いんだけど、普段から声を小さくするかハンドサインで指示を出すようにしているからね。半ば癖のようなものだ。
戦闘準備という事で、僕らは全員、それまで真ん中で折りたたんであった長さ3mもの柄を持つ、バールのような武器を構えた。
これが、このフロアで最善であると判断した僕らのメインウェポンだ。
このバールのようなもの、対ゾンビ武器として作成した専用武器である。
病毒を食らわない距離を保てるように、一方的に攻撃できるようにと考案された。
ゾンビは動きが遅く、力も弱い。筋肉は腐って使い物にならず、アレはむしろ病毒の源と言う側面があるが、拘束服のような役割しか持っていない。
通常、生き物の筋肉は電気信号によって収縮し、骨と組み合わさる事で体を動かす。
しかしゾンビはその電気信号を出す脳が死んでいるし筋肉そのものも腐っているため、体を動かす役には立っていない。骨だけであれば魔法的な何かがスムーズに体を動かすけど、筋肉にまでその力が及んでおらず、動くたびに肉が壊れていく。
まぁ、病毒という攻撃手段がなければ無い方がマシじゃないかというわけだ。
そんな理由でこういった長柄武器が有利なわけだ。
ゾンビの動きが遅いという事で、僕らは武器を構えながらだけど普通に前進し、相手との距離が2mぐらいのところまで近づく。
そこで僕らは腰を落とし重心を低くすると、前衛の僕と信綱、鞍馬が一斉に武器をゾンビに叩きつけた。
狙うのはヘソのあたり、体の真ん中だ。ゾンビ達は回避行動を取らず、そのまま吹き飛ばされる。
肺が動いていないので普段は呼吸音一つしないゾンビだけど、僕らが殴りかかれば肺の空気が抜け、筒を空気が通り抜けるような、妙な音を出す。それを無視し、倒れたゾンビをバールのようなものの先端で徹底的に叩く。
倒れた後に狙っているのは背中、そして背骨だ。後は後頭部。
うつ伏せに倒せなかったゾンビはバールのようなものの先端で引っかけ、ひっくり返す。それをする為にバール的な形状を与えているのだ。
で、背骨さえ折ってしまえば相手は立ち上がれなくなるし、後頭部を潰してしまえば中の弱点、コア的な物が壊れて活動を停止する。
これが僕らのゾンビの倒し方だ。
ぐずぐずに崩れた腐乱死体だけど、「汚物は消毒だ」と言ってこれに火をつけて荼毘に付すとか、そんな事はしない。
ゾンビはゴブリンの死体のようなものだけど、人体と同じく燃やし尽くすのは非常に手間と時間がかかる。そんな事をする余裕は無い。ついでに、迷宮という密閉空間でそんな事をすれば酸素の残量がやばくなるかもしれない。
ランタンで酸素の量を確認しながら歩いているけど、それも完璧じゃ無いからね。わざわざ危険地帯を増やす気は無い。
あとは、燃えた時の煙に毒が乗ったら最悪だという懸念もある。
なので、ゾンビの死体(?)は放置だ。
そんなわけで、僕らはゾンビの死体を通路の端に寄せ、できるだけその反対側を1列になって通り抜けるのであった。




