将来のビジョン
中国の中に、ゴブリンの国ができたみたいだ。
正直なところ、よその国の事なので僕にとってはどうでもいい話だ。
付け加えるなら、僕はゴブリンの保護者とか守護者とか、そういった存在ではない。
冷たいい方ではあるけど、よその国にいるゴブリンがどうなろうと知ったことじゃない。虐殺されたところであまり気にしない。
僕が自分の身内なら守るけど、それ以外は割とどうでもいいんだ。
そんなどうでもいい事のために呼ばれた、ゴブリン有識者会議。
交通の便も考慮され、全国の大都市で行うらしく、僕が呼ばれたのは名古屋の会場だった。
ゴブリンをサーヴァントとして長く扱う冒険者を中心に、法律関係の専門家やお国の紐付き経済評論家、NGOの代表などが集められた、らしい。
中には代理人なんかも混じっているだろうけど、興味が無いからそれも分からない。
名前や団体を一気に覚えるリアルスキルは持っていないからね。聞きはしたけど名前をほとんど覚えていないし、顔と名前が一致するなんてことはありえない。
あんまり関わり合いになりたくない人種が多そうだからねー。
本当はこんな会議に顔を出したくないけど、お国の要請なんだし、一応は従わないといけない。
ほら、僕は日本人だからね。日本人としての権利を享受するのだから、不本意であろうが一応は義務も果たさないと。
1日5万円のお給料が出るし、ただ働きってわけでもないから。理不尽な話という訳でもない。
似たようなことを考えている人はかなりいて、プレイヤーと愚痴仲間になったりもした。
今の僕らって、1日に100万円相当の稼ぎがあるようなものだからね。他の人はもっと稼げる人もいるし、こんなことに関わっている時間がもったいないとみんなで苦笑いをしていた。
あと、さぼったというか参加を断った同業者に盛大に毒を吐いたりもしたよ。
こういう会議に出て知った事は、意外とゴブリンを使うプレイヤーが多くいたという事実。
やっぱりゴブリンって最弱モンスター扱いだからね。使う人は少数派だと思っていたんだよ。国内には200人以上のゴブリン使いがいるみたいだ。これが多いか少ないかは主観にもよるけど、僕はかなり多いと思ったよ。
他の人は、ゴブリンを雑用というか、ホームの管理者として使う事が多いみたい。
雑魚扱いされるゴブリンは、言い換えれば序盤に手に入る維持費の安いサーヴァントだから、他のモンスターよりも便利に使えるのだという。
テレビゲーム的なイメージ、邪悪な妖精族とかそういった特徴や生まれをしているわけでもないから、使ってみればとても役に立つというのが僕らゴブリン使いの共通するイメージだ。体を綺麗にすることも森の狩人をやっているので抜かりが無いし、実際に集団生活をしていれば自然と社会性が形成されるんだよね。ゲーム的なイメージの社会は作れないんだろう。
そういう意味では、ゴブリンをいい労働力と考えた中国人プレイヤーは頭がいいと思う。
農業方面に手を出しているプレイヤーは、ほぼ全員がゴブリンを使っているみたいだ。
土地代とかは後半になるにつれ誤差扱いされるけど、維持管理の手間を考えるとサーヴァントは必須みたいだ。土地の管理にまでEPを使うと無駄が大きくなるらしい。
人を使う事でより大きな利益を上げるとか、会社経営出来るんじゃないかな、この人たち。
オーヴァーランダーである程度稼いだら引退して会社を作るんだ、そういう人もいたよ。
そんな将来の話をしたとき、僕は自分が今後どうするのかを考えさせられた。
あと何年、僕はプレイヤーでいられるのか。
あとどれだけ、僕は戦える体を持っていられるのか。
結婚はどうする?
子供はどうする?
――僕は、信綱たちとお別れができるのか?
ゴブリン有識者会議は、僕にとってさほど意味のあるものではなかった。
知っている事を教えるだけ、簡単な質問に答えるだけの、どうでもいい話し合いだった。
ただ、そこで得た新しい繋がりが僕の行く末を少し動かすことになるのだった。




