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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
トライブ・オーヴァー
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呪文詠唱、のちお約束

 僕は、机の中に封印した一冊のノートを取り出す。

 そのノートの名は、『逆十字の魔導書』という。


 ――僕の、黒歴史ノートだ。



 中学時代、ライトノベルやアニメにハマった僕は、数々の黒歴史を生産していた。

 これはその中でもとびっきりの一冊で、「ぼくのかんがえた最強魔法」の詳細を記したものだ。僕の中に封印された厨二(ちゅうに)のすべてが詰まっていると言っていい。


 封印しただけで廃棄しなかった理由は、自身への戒めだ。

 廃棄し、無かった事にすることで再び愚かな僕が目覚めないようにと、罪の記憶を忘れないようにと残してあったのだ。



 ……いけない、封印を解いたことで思考が、かつての自分に染まりそうになっている。これは手早く済ませないとダメだね。





 僕が実験場に選んだのはゴブリンの森の一画。周囲にゴブリンの集落が無い方角の、安全な一帯だ。そこに一人でやってきた。

 誾は反対したけど、これからする事を人目にさらすと、羞恥心で死ねる。僕の心の平穏のためにも、一人行動は絶対条件だ。そこに妥協は無い。


 静謐な森の中、木々の密度の薄い場所に僕はたたずむ。

 僕は周囲に意識を溶かしてゴブリンや猪などがいないことを確認すると、右手を前に突き出し、『呪文』を口にする。


「我が魔力よ、炎の矢となり眼前の敵を撃て! フレイムアロー!!」


 ……何も起きない。

 いや、手の先からいつものように火が噴き出たけど、矢になることもなく、ただ魔力を消費しただけで終わった。


 OK、すぐに何かが変わるわけもない。この『呪文詠唱』はまだこれからの技術かもしれないし、気にしたら負けだ。ここには誰もいない。だから大丈夫。



「我が魔力を糧として、剣よ炎を纏え! フレイムエンチャント!!」


 今度は迷宮で手に入るボロい剣を持ち、呪文を唱える。

 が、今度こそ何も起きない。剣の近くに火が出る事もないし、剣が熱くなることもない。完全な失敗だ。

 これに関しては結構イメージがしやすいから期待していたんだけど……どうやら全然ダメらしい。



 ならばと、今度は趣向を変えてみる。


 僕はいつも魔法を使うときのように、指先に赤い火を灯す。呪文詠唱も何も関係なく、イメージする、魔力を動かすだけでそれは可能だ。

 そして、魔力の減り具合を確認し、一度火を消す。


「魔力よ、灯火(ともしび)と成れ。イグニッション」


 使える魔法に呪文詠唱を加味することで、魔力の消費や魔法の感触がどう変わるのかを確認してみるのだ。


 何も変化はない。

 むしろ、呪文詠唱をしたときの方がイメージがぶれるのか、火が小さいように感じた。



 僕はその結果を自分の中で消化し、結論を出す。


「照れが拭い切れないのが問題かな」


 僕は呪文詠唱を黒歴史から引っ張ってきたけど、黒歴史と向き合う事により僕の精神力が削られ、魔法のイメージを阻害しているようだ。

 とどのつまり、逆効果でしかない。


 もしも呪文詠唱を使おうと言うなら。僕はこの「照れ」を打倒しなければいけない。





「我が魔力を捧げ、炎の矢を作る。数は1、射程は50m、速度は時速120㎞。撃て」

「炎をつかさどる精霊よ、我が声に応えよ! 我は(なれ)に魔力を捧げ、炎の矢による一撃を求める!」


 その後、僕は厨二ノートのネタ(じゅもん)をいくつも試し、その全てに失敗する。

 失敗ばかりでも魔力は消耗し、呪文を叫び続けて喉が痛くなる。


 僕は休憩のため、ぬるい水の入ったペットボトルを手に取り――視線に気が付いてしまった。

 振り向けば森の奥に見える(ゴブ)影。信綱と誾だ。間違いない。

 あの2匹がいつからいたかは分からないけど、キカレテイタ?


 2匹は僕が気が付いたことを悟ると、申し訳なさそうな顔でこちらに近寄ってきた。


「長様。言いつけを破って申し訳――」

「いやぁぁーーーーっ!!??」





 誾が頭を下げようとしたけど、その前に僕の羞恥心が働いた。

 その後の事は、あまり覚えていない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何て酷い…こんなのってないよあんまりだよ。
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