魔法検証
学生生活に未練があったんだな、そんな事に気が付いてしまったけど、大学は中退、休学ではないので復帰は難しい。
できないとは言わないけど、生活費をこっちで稼ぎつつ大学生をするのは現実的じゃないよね。家の件もまだ大丈夫とは言い切れないし。
大学の事は、今は考えないでおくのが正解かな。
大学への未練を振り切り誤魔化して、僕はそれよりも大事な仕事をする。
魔法の研究だ。
僕の直属部隊、出雲に魔法を覚えさせる方が重要だ。
今回の収入で、≪氷魔法≫≪雷魔法≫≪樹木魔法≫の3つが揃う。
揃っただけ、とも言うけどね。
覚えさせた魔法の練習を指示してあるけど、それは順調なんだけど、すぐに何かができるという事はない。
出雲のメンツは魔法のスキルを持っていないゴブリンだったこともあり、魔力、ゲーム的に言い直すならMPが全然足りなかった。
練習でMPはどんどん上昇しているけど、本職である藤孝の1万分の1のMPで、≪火魔法≫をそこそこ使える僕と比べても100分の1程度しかない。戦士職から魔法職にクラスチェンジした直後みたいなんだよね。
≪氷魔法≫の1号はコップ1杯分の水を凍らせるのに10分を要し、回復には3時間ほどかかる。最初は水を冷やす事しかできなかったので、たった数日でずいぶん成長したと思う。
≪雷魔法≫の2号は手で触った相手に静電気レベルの衝撃を与える魔法を10回で打ち止め。しかも自分にもダメージがいく。バッテリーへの充電など、夢のまた夢だ。
≪樹木魔法≫の3号は……そこらに生えている草を、ゆらゆらと揺らすのが精いっぱい。まぁ、覚えた直後だし? これからだよね、たぶん。
こいつらがどれだけの期間でどこまで成長するか分からないけど、そこそこ使える魔法使いにはなってほしい。
そのうち、魔法の先生になってほしいからね。
で、僕自身も魔法の練習はしている。
魔法の火を使うのはずいぶん慣れたので、料理なんかは薪などを使わずに魔法の火だけで調理をする。薪だと火力調整が難しいけど、魔法なら自分の意志だけで思った火力を出すことができ、とても便利だ。あとは風呂の湯を沸かすのにも魔法を使う。
寝る前には魔力を使い切ることにしているので、狙った場所に、考えた通りの火力を出すのはそこまで難しくないし、持続力もかなり伸びている。。
問題は、ゲーム的な魔法が上手く使えない事だ。
よくある『炎の矢』『火球』といった魔法は難易度が高く、全然形にならない。火炎放射器、バーナーというか、コンロというか。そういった魔法しか使えない。
戦闘に魔法を応用できればずいぶん楽になるんだけど、現状では使わないほうがまだマシといったレベルだ。
一度、過熱した鉄球を投げてみようとしたことがある。
投げ紐が融けて鉄球があらぬ方向に飛んで行って終わった。下手すれば味方殺し案件だった。
弓矢で矢じりを加熱すれば矢が燃えるし、矢じりが外れるという事もあった。本当に、使えないのだ。火炎放射器をすれば自爆魔法になるのでやりたくない。
以来、僕は戦闘に魔法を使うのを封印している。
なお、藤孝とかは魔法で戦闘できたりするが、参考にならないので例外は横に置く。
戦闘用の魔法ができない理由は大体わかっている。
イメージの問題だ。
僕は、「火が矢の形になって敵の所まで飛んでいくにはどうすればいいのか」をイメージできない。他の戦闘用魔法も似たようなものだ。
原理が分からない。
ロジックが組めない。
「魔法だからそんなもの」と割り切れない。
結果、イメージが形にならない。
だから僕は戦闘で魔法が使えない。
ただ、魔法を戦闘用にできれば戦力増加は間違いないのも確かだ。
こうなったらもう、アレをやるしかないようだな。
僕は若かりし頃の過ちを、二度と表に出さないと決めたはずの封印を解き放つことにした。




