ゴブリンの集落巡り③
幸いにも動画を直接投稿できたため、僕の下手な写しは不要となった。
ギルマス経由で外の人たち、言語学者さんとかが一応目を通してくれることになった。現在、仕事の無い歴史学者や考古学者とかも駆り出され、何が書かれているか考えてみるそうだ。
こういった学者さんって、お金にならない仕事が多いからね。人手はいっぱいあるそうだよ。
あの紙の事は運よく専門家に頼めることになったけど、調べるには時間がかかる。
使われている文字のパターンから単語や文章を想像する作業っていうのがどの程度の難易度かは知らないけど、それが1日2日で分かる事じゃないのは僕でも理解できる。
この件についてはじっくりと、その他の情報を提供しつつ気長に取り組んでもらう事になった。
可能ならあの紙をこっちに持ち込みたかったけど、残念ながら200万円分、2000PもEPが必要と言われると諦めたくもなる。
学者さんはもともとお金があまりないし、僕も200万円分の寄付をポンとするほど裕福ではない。折半して100万円になったとしても僕らはお互いに嫌だ、出したくないとなる。映像関連の注文がいくつか来たけど、そこで妥協してしまう訳だね。
ならばギルマスがという話も出たけど、ギルマスは僕や学者さんのスポンサーではないので、払う義理が無い。
まぁ、映像記録だけでもずいぶんな情報量だし、特に問題は無いだろう。
アタック82回目。
前回は焦りからバタバタしてしまったけど、今回は待ちの時期だという認識を持てたからかずいぶん落ち着いている。
ただ、集落巡りはぞのまま続行。集落の様子を撮影してほしいと頼まれているのでビデオカメラ片手に野良ゴブリンの生活環境を撮影することになった。
「こいつらの育てている作物は、麦なのかな」
「はい。陸稲とも考えられますが、どちらも大差無いでしょう」
大集落以外でも、農業は盛んにおこなわれるようになっている。
畜産業も小規模ながら行われており、猪の家畜化はゴブリンもやっているようだ。僕らほど効率よくやってはいないが、柵である程度行動を制限するなどして猪を囲い込むところまでは始めていた。
で、農業の方だけど。
ゴブリンの集落では水田こそ無いものの、稲か麦らしき植物が栽培されていた。美味しくないので村では栽培させていないけど。欲しかったら奪えばいいので栽培しないけど。
野菜の類は無いんだよね、不思議なことに。カロリーベースで育てる作物を考えているのだろうか?
そういえば、稲って中国経由、朝鮮半島からの持ち込みだっけ? 原産地は中国南部か東南アジア?
いや、関係ないだろうけどさ。
家の方が竪穴式と木造と混合なのも、生産力やら生産性なんかを考えると、統一出来ると考える方が不自然か。
とある時代ではみんな竪穴。とある時代ではみんな木造。そこまでいきなり切り替わるわけじゃない。
身分やら集落内の立場で住める家のグレードをコントロールされるなんてあっても不思議じゃないよね。
で、家以外に生活に関わるものを見ると、鉄器なんかは集落でも使われているのに気が付く。
集落内に鍛冶場は無いので、大集落との交易で手に入れていると推測される。
……もしかして、いくつかの集落に分散されているけど、大集落を頂点とするゴブリンの国が出来上がっている?
ははっ、まさかね。
さすがにそこまで政治が進んでいる、事もない、よな? 無いよな?
考えていてもしょうがない。思考を切り替えよう。
トイレなんかの公衆衛生といった概念はない。
貝塚ならぬ骨塚といった、ゴミ捨て場の概念はある。
骨を利用する道具、猪の牙や骨を使った槍の穂先も見つかった。
鉄器は少しあるものの、少ししかないのでなんでも鉄器にするといった事は出来ていない。
石器を使った脱穀用の道具が見つかった。
大集落の物より質は落ちるが、服飾文化もある。
林業の概念はまだ無いようだ。近くの林が間伐されているといったことは無い。生えるに任せている。
変に膨れ上がっている地面があったので掘り返してみたら、デカい甕に入ったゴブリンの死体を発見した。葬式というか、遺体の埋葬、土葬の文化があったようだ。
これだけの調査に1日を費やし、レポートにさらに1日費やすことになった。
気分はフィールドワークの調査員だけど、本業の人であればもっと細かい点を見ていくのだろう。駄目な点があっても今回のレポートを叩き台に、さらに調査を続けていけばいい。
それに、これは一回限りの調査で済むとは思っていない。
これから何度も足を運ぶことになるだろう。
長い長い先を思うとうんざりする事もあるけど、新しい事に挑戦する楽しさというのもある。
大学をリタイアした不幸もあり、学生のようにふるまうのが嬉しいと思う事もある。……できれば、他の学生とも一緒にやりたいけどさ。
僕は僕なりに、今の生活を楽しんでいた。




