コネクト
いつもよりも早めにアタックを切り上げてEP稼ぎを終えた僕は、急いでギルマスに連絡を取った。
あっちで中国の地図が見つかった件は、僕の鈍めの直感でも分かるぐらい不安をかき立てるもので、焦燥感を煽っていたのだ。
幸い、ギルマスはすぐに連絡が取れた。
ギルマスの方もこの件を重要視しているらしく、直接会って話をする事になった。
「俺たちは、アレを等価交換だと認識している。
俺たちが地球に持込むアイテム、あの対価だな。EPはあちらの世界のあちらの通貨だが、それを支払うだけで地球に物を持込み続けるのは釣り合いが取れない。
死んだ連中から情報を抜き取っているのかそれともプレイヤー全員から記憶を漁っているのか。それはまだ分からん。
中国人が一番プレイヤーが多い事を考えると、見つかる地図の種類は中国の物が多いというのも偶然では無いだろうな」
「等価交換?」
「情報の価値なんてものは、聞いた者が判断する事だぞ。俺たちにしてみればなんてことない情報でも、あちらさんには重要な情報かもしれない。
そもそも、地図は一般的に考えても重要で流出を防ぐべき情報だろうが」
「江戸時代のシーボルト事件とか、ありましたねー」
「そういう事だ」
ギルマスは推測推論ではあるが、自分たちなりの意見をまとめていた様子だ。
とういか、僕が気が付くずっと前から知っていたみたいだ。
見つかった地図は中国のものが最多だけど、他にもインドや南北アメリカ、ヨーロッパのものも見つかっている。
そして地図だけで無く、何らかの数式らしきものまであったという話だ。
地球の情報の流出は、思ったよりも深刻なのかもしれない。
「一応言っておくが、この話は他言無用だ」
一通り説明を終えたギルマスは、真剣な顔でそう告げた。
ただ、僕はなぜそこまで深刻そうにしているのか分からずに首をかしげる。
そんな僕の無理解を嘆き、ギルマスは物わかりの悪い生徒を諭す様に理由を説明し始める。
「もしこの情報が広まったらどうなると思う?
多くの連中が、「何で?」と考え、次に「その先はどうなる?」と考えるよな。
考えられる最悪は、2つの世界の融合だ。下手をすれば、人類の破滅さ」
ギルマスは重々しく、自身の予想を口にした。
しかし、それなら余計にこの情報を広めるべきではないかと僕は考える。
「あのな。人類の破滅を本気にする奴が出てきたとするだろ。その連中はどういった行動に出る? 下手をすればプレイヤー狩りが横行するし、国まで首を突っ込みかねない。
それでいてプレイヤーは対抗できる力がないんだぞ。向こうでヒーローやっていようが、こっちの俺たちは常人だ。数で押されてそれで終了。下手すりゃ殺される」
そこまでの事が起こりうるのか。
僕にはまるで実感がなかった。
「日本は、最初は平和だろうさ。でも、よその国は違う。
そのよその国で起きた事が日本に何で持込まれないと言い切れる? 狂気は感染するさ。確実にな」
口を閉じておけと言った、ギルマスの語る最悪に僕は血の気が引く思いだった。
正直なところを言えば、僕はそこまで酷い事になるとは思っていない。楽観視しているふうである。
が、ギルマスの言葉には僕の中に無い重みがあり、まるでそれが真実の様に感じられた。
ギルマスはその後に、何でもない事をしゃべる様にパタパタと手を振ってから口を開く。
「所詮はただの予測だが。その予測に取憑かれる奴は必ず出てきて、真実であるかの様に振る舞うだろう。未来の事は、誰にも分からないのにな。
そんなくだらない妄想に俺たちが付き合う謂われはないさ」
一転しておどける様な口調。
ギルマスの発言で重くなった空気が霧散した。
僕は一息つき、自分なりの予測をする。
世界の融合、そうではなく世界の模倣。
地球の歴史をなぞる様に進化するゴブリン。それを見てきた僕は、世界が繋がるとは、混ざるとは思えなかった。どちらかと言えばオーヴァーランダーの世界は僕らを起爆剤にした実験場では無いかという気がする。
あの地図などは、もっと別な理由があるんじゃないだろうか?
ただ、すでに何かが繋がっている。
運営の知らないどこかで、何かと何かが繋がってしまったんじゃないかな?




