誾千代の心配
アタック79回目。
「ふぅ。ようやく怪我が治った」
怪我を回復薬で癒すと、ようやく腹の痛みは治まり、落ち着くことができた。
刺し傷は熱を帯びていたので、夜はなかなか眠れなかったりと大変だったのだ。
これでようやく安眠できると、僕は胸をなでおろした。
「長様、お加減はどうでしょうか?」
「ちょっと眠いだけかな? 今日は大人しくしておくよ」
怪我の方は、こっちへ来た時に誾に直ぐに見つかり、何があったか隠さず教える羽目になった。
なお、回復薬は怪我などを治してはくれるものの寝不足などの体調不良までは治してくれない。
怪我で寝不足だった僕は、誾から1日だけだけど外出不許可を言い渡されている。
「そちらに誰か送り込む許可は、やはりいただけませんか?」
「うん。駄目だよ。それはやらない」
誾は僕の怪我の理由を知ると、村の誰かを日本に送り込むことを提案してきた。
護衛として1匹でも連れて行ってほしい。それが誾の意見だ。
当たり前だけど、僕はそれに頷かない。
誾には悪いけど、日本にゴブリンを連れ込むのは悪手だと思う。
悪目立ちするし、1匹だけ連れて行くのは可哀そうだし、たくさん連れて行くのはコストがかかる。
なんにせよ、あまり取りたい手段ではない。
「では、普段からもう少しでいいので、襲われるかもしれないと警戒してください。
気を抜くのは、ここでなら出来るでしょう?」
「確かにホームは安全だけどねぇ」
誾は自分の意見が通らないことを理解すると、僕に日本が安住の地で無い事を分かってくれと言いだした。
そしてここ、ホームこそが僕にとっての帰るべき場所だと。
確かにホームは安全だ。
外敵という概念が無く、僕が襲われる心配などどこにも無い。
一緒にいるゴブリンたちは、悪ふざけをする奴こそいるものの、僕の味方で、身内だ。
ここよりも安全な場所など、どこにも無いだろう。
「まぁ、防刃ベストでも買おうかと思うし。それを着るようにすれば、今度からは同じ事があっても怪我をしないよ」
「本当に、ご自愛ください。長様は我らにとって、無くてはならない御方なのですから」
誾は僕の軽い態度に悲しさを覚えつつも、頭を下げて自衛を心掛けるように進言した。
ごめんね、こんな主で。
でもあんな事は早々ないだろうし、僕としてはヤクザに狙われた時のことを考えて対策も考えているから、完全に無防備ってわけじゃないんだよ。
僕は失敗したなぁと思いつつ、こうやって心配される事に喜びを感じていた。
だから誾の頭をなでつつ、この話をこれで終わりにして、今日1日はゆっくりすることにした。




