ゴブリン強化
こうやって色々と試していくと、昔ゲームセンターでやっていたゲームを思い出すね。
細かいシステムは横に置き、大枠ではクエストをこなしていき、ランクを上げて、さらに上のクエストに挑戦していくものだった。
で、僕はあまりゲームが得意でなかったから低いランクの所でチマチマ稼いでいたんだけど、友人にもっと上で稼いだ方が効率がいいって言われたんだよね。
言われるままに上のランクに挑戦していくと、最初は苦戦と言うかクリアできない事もあったけど、だんだんそれをクリアするのが楽になる。で、何回かに一回は失敗する難しいクエストでも低いランクの所で同じ金額を使ったときよりずっと大きく稼げたんだ。
低いランクで燻るのは時間の無駄だったんだって思った時は悔しかったね。
4回目のアタックも終わり、そのまま順調に日々は過ぎ、8回目のアタックを終えた。
ゴブリンから猪にターゲットを移した僕は、順調にEPを貯めていった。
一回の稼ぎは100Pを軽く超え、このままなら10日目には1000Pに届くだろうって思えるほどだ。
今のEPは878P。
上手くやれば9回目でもなんとかなるかもしれない。
猪の解体も手慣れてきたので4時間程度――本職の2倍――で終わらせられるようになってきた。
これに関してはスキルの熟練度が上がってきたのも影響していると思う。
スコップが2代目になったり水場がまだ見つからなかったりと問題もあるけど、一先ず順調だった。
8回目のアタックまでは、ね。
9回目のアタック。
僕は目の前のゴブリンを見て、顔をしかめた。
ゴブリンのサイズは以前と同じ。
小学4~5年生、10歳ぐらいの子供と同じぐらいなんだけどね。
目の前のゴブリンは、毛皮を着ていた。
手には棒切れ。こん棒のように骨を持っている奴もいる。あきらかに道具を使うことを覚えていた。
ゴブリンが成長し、ゲームの難易度が上がっていたんだ。
オーヴァーランダーのモンスターは、同じステージ・同じフロアでもバラツキがある。
入り口近くが安全で、奥の方が危険っていうのは基本だよね。
付け加える事として、モンスターは時間経過で成長する。
僕と戦う事で学習し、厄介になっていくんだよ。
まずは服を着る事、武器を持つことを覚えたみたいだね。うん、とっても厄介だ。
棒切れとスコップでは、勿論スコップの方が強いよ。
ただ、棒切れがどうこうっていう問題じゃなくてね。
武器を使うっていう発想が危険なんだ。
己の体一つで戦う獣から、道具を使う知的生命体にクラスチェンジしたっていう事だから。
使う道具のレベルは低いけど、ある意味では僕と同じステージに上がってきたわけなんだよね。
もしかすると、僕と同じく罠を使うようになっているかもしれない。
変わったのが見て分かる部分だけだと思わない方がいいかな。
ゴブリンは3匹いたけど、もうこれぐらいなら普通に対処できるから、僕はいつものように投石から戦闘を開始する。
毛皮の所に石を当てても大したダメージにはならない。
こうなると露出している所に当てるか、ある程度近付かせなければ火力が足りない。敵の防御力が上がるって面倒だよね。遠距離戦がやり難くなった。
これまでなら、どこに石を当てても行動不能に追い込めたんだけどなぁ。
石でどうにかできたのは3匹中1匹だけ。
残る2匹とは接近戦だ。
僕は2匹まとめて攻撃する意図を持って、横に大きくスコップを振る。
これを避けるのは難しい。
ただ、ゴブリンのうち1匹が手に持っていた棒切れを盾にして身を守った。2匹同時に攻撃したこともあり、即死は免れている。
ゴブリンが1匹だけになったから、今度は突いて攻撃だ。突きなら防ぐのが難しいからね。
そうしたら、このゴブリンは僕のスコップを避けようとした。
体の真ん中を狙っていたから掠るように当てているけど、ダメージは思ったほどじゃない。かなり面倒。このゴブリンは精鋭ゴブリン? それともユニークモンスター? とにかく他とは比べ物にならない。
次はどうしようかと僕が隙を窺えば、ゴブリンはいきなり背を見せて逃走しだした。
彼我の戦力差を考えれば当たり前の判断だろうけど、思わず目が点になってしまった。
それでもすぐに気を取り直し、僕はゴブリンめがけてバールを投げつけた。
バールは石ころよりも重く、攻撃力が高い。
毛皮を貫き、背中を大きく傷つける。
ゴブリンはそのダメージで前のめりに倒れ、何度も転がった。
そうなればあとは簡単だ。
僕は倒れたゴブリンにスコップを何度も叩き付ける。
頭を叩くのは脳震盪を起こすため。
腹のあたりに突き刺すようにするのは、やっぱり腹が一番柔らかいから。腹ならスコップでも割と突き刺さるんだよ。
それを数度行えば、後は距離を取って様子を見る。
一定以上のダメージを与えれば、わざわざとどめを刺さなくても勝手に死ぬんだよ。
ラストアタックとばかりに死力を振り絞られるのは危険だから、トドメが必要なら遠くからやるよ。
しばらくして、強敵ゴブリンが死んだのを確かめた僕はほっと息を吐く。
わずか9回目で上げられた難易度に、今の僕の実力で対応できていた事に安心したんだよ。
もしかすると、難易度アップに対応しきれない可能性もあったからね。
今ならまだ普通に勝てそうだけど、強敵ゴブリンが並みのゴブリンと同じ頻度で出て来たら嫌だなぁ。