凶事
ゆっくりとした時間の中で、やっておきたいことを順番に進めていくのは箱庭系ゲームのようで楽しい。
いや、箱庭系ゲームは時間管理が面倒で忙しないから、あんまり似てないかな?
どちらにせよ、村の景観が街のそれへと変わっていくようで、見ていて飽きないのは間違いないよ。
そんな事をやっていると、5日目に迷宮探索をしていたメンバーが戻ってきた。
新しい、白オーク(♂)を連れて。
鞍馬の目は、期待通りで期待通りではなかった結果により死にかけている。
白オークが出る事に喜び、雌でなかったことに絶望し。喜んだ反動で絶望はより深くなったんだろう。
でも安心していいよ。
ちゃんと雌の白オークが出るまでは続けるからさ。
白ゴブや白オークがこうやって増えていくことで、村の人口が徐々に増えていく。
もうすぐ義姫たち母ゴブの出産も始まるし、そうなれば100匹越えとなるだろう。
村の開発は100匹どころか200匹を受け入れる事を前提にしているので、特に問題は無いはずだ。家もちゃんと増やしているからね。
問題があるとすれば、数が増える事で個人間の揉め事が起きることぐらい? さすがにそれはどうにもならないと思うな。
まぁ、前に比べれば川も追加したし順調に発展していっているよね。
僕は村の発展具合に満足すると、今回のアタックを終了して日本に戻っていった。
日本に戻った僕のやる事は、あまり変化が無い。
たまった洗濯物の片づけと買い出しがメインで、外にご飯を食べに行ったり。あとは知り合い連中とお喋りをするぐらいだ。
買い出しにしても宅配サービスを使う物も多いので、そう頻繁に行かなくてもいいんだけどね。
僕は洗濯機2台に洗い物を入れ、自動洗浄を行う。
最近の洗濯機は手間がかからないから楽でいい。こうしておけば脱水まで完璧にやってくれるので、僕はそれを鞄に詰め込んで持って行くだけだ。
アイロンがけとか畳むのはね、向こうでやらせればいいんだよ。
この仕事が終わると、あとは買い出しだ。
いつものホームセンターまで車で移動する。
店に着くと、顔馴染みの店員さんから声をかけられたりするので、欲しい物を説明して連れて行ってもらう。
常連っていうのは店にとっても大切にすべきお客さんという事なので、こうやって案内や持ち運びの手続きをしてもらえる事もあるんだよ。やってくれない時もあるけどね、そこは料金外のサービスだから文句は無い。
相応にお金を使っている人間の特権だよ。
そうして案内された先で、一人の少年とすれ違う。
特に意識する事もなく、当たり前の様に僕はその少年を避けようとして。ものすごく嫌な感じがした瞬間、腹部に強い痛みを感じた。とっさに身を捻って少年から大きく距離を取ろうとする。
「チッ!」
何事かと考える前に、僕は少年を強く殴りつけ、吹っ飛ばす。
見れば少年の手にはナイフが握られており、そのナイフには僕の血が付いていた。
右の脇腹を見れば血がにじんでおり、そのナイフで刺されたことが分かる。ものすごく痛いが、歯を食いしばって痛みをこらえる。
「新田様!! 早く救急車を!! いえ、そうではなくて……こちらで応急処置をします!!」
僕の案内をしていた店員さんが、現状を理解して叫び声をあげた。
血に慣れてなくて叫びたいのは分かるけどね。けが人のそばで大声を出さないでほしいなぁ。
痛みで飛びそうになる思考の中で、僕はそんな事を考えていた。




