いつもの簡単なお仕事
ゴブリン大集落はずいぶん堅牢になっているけど、中に入る気がないならやる事は簡単だ。
僕は門の近くに行き、門番をしているゴブリンの前に顔を出した。
僕とゴブリンの距離は200mぐらいある。石を投げても届くはずがない。
けど、目的は敵をおびき出す事だ。顔を見せるぐらいは問題ない。こっちの攻撃が届かないように、向こうの攻撃だって届かないからね。
僕が現状をその程度に見ていると、ゴブリンの門番はすぐに門の中に入り、扉を閉じた。ついでに、門の脇にある見張りか何かの櫓に上り、弓を構えた。
面倒くさい事に、ゴブリン達は弓による遠距離攻撃手段を得ている。これはすでに報告されていた話で、僕も一応程度に話は聞いている。
ただ、弓の数が少ない事、弓の射程が短い事で脅威とは思っていないけど。
さすがに最初期の弓では100mも矢を飛ばす事などできはしない。
弓って、扱うのに長い訓練期間が必要なのに、数を揃えないと脅威度が低いんだよね。しかも大盾部隊でも作ればかなり被害を減らせる。しかも防衛側ならともかく、攻撃側では出番が少ない。
もちろん熟練者の弓兵は脅威だけど、現状ではそこまで気にしなくて良いかなって思う。
僕らは大集落の近くに行き、事前に拾っておいた大きめの石ころを、同じくそこら辺で採取したツタで縛り、櫓からそこそこ離れたところから集落の壁に向けて投げ飛ばす。普通に殴るよりこうやって石を投げた方が効率よく壁を壊せるんだよ。
櫓は高さにより弓の飛距離を伸ばす有効な施設だけど、移動式じゃないと場所が固定されて意味が無いときがある。付け加えるなら、大集落を覆う壁も僕らへの攻撃を防ぐ盾になる。防備を整えるのは良いけど、まだそれぞれの施設の特性を活かし切れていないよね。
僕らは悠々と石ころで相手の壁を壊し始める。
投げては回収し、回収しては投げる。今はまだ大きくへこませ傷を付けるだけだけど、相手が門を閉ざして何もしないなら、壁はどんどん壊されていくだろう。
さすがにそれは不味いと理解したのか、ゴブリンは門を開けて僕らめがけて走ってくる。
……頭、悪いよね。
単純な行動をとったゴブリン相手だけど、出てきた数が50匹近いので、まともに戦えば苦戦は必至だ。僕らは森の方に走って逃げる。
僕らと出てきたゴブリンの距離は300mぐらい離れていたので、200m先の森までは簡単に逃げ切る事ができた。そこで僕らは迎え撃つ事にする。
「嬉し懐かし、催涙弾!!」
「サイリダン!!」
まずはいつもの催涙弾で先制攻撃。相手が森に入る前、射線が通しやすい場所から全力で催涙弾を投げる。
どうでも良いけど、一緒に投げた信綱が僕のものまねをするけど、ちょっと違うね。
投げた催涙弾は狙い違わずゴブリンの集団の頭に当たり、その過半数を無力化する。ついでに、先頭にいたゴブリンなどは後続に踏まれてダメージを負うし、先頭のゴブリンを踏んだ後続は転んですぐには動けなくなる。良い感じの出だしだ。
中には弓持ちもいたけど、こっちに走りながら弓を撃つのは難しいし、僕らは木々のそばにいるので簡単に狙えるものでも無い。射程の利はこの場合はむしろ僕らにある。
これで弓騎兵でもいれば脅威度は跳ね上がるんだけど、腕を振って走るゴブリンであれば弓を持っていようが怖くは無いよ。
数が増え装備も良くなったようだけど、敵ゴブリンにはまだまだ催涙弾に対応できる技術が無い。数を大きく減らされた敵は逃げ惑い、倒れている仲間を見捨てていった。
僕らは無力化された、倒れたゴブリン相手にとどめを刺して周り、EPと戦利品を手に入れるのだった。




