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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
ワールド・オーヴァー
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骨巨人戦 2回目

 僕らが通った後とは言え、鉄球を運搬してくれた部隊は強行軍としか言いようのないスケジュールでホームに戻っていった。

 そしてホームに帰る直前にトランシーバーで脱出前の連絡をしてくれたので、僕らは安全確実に、6人パーティ相当の迷宮難易度で中ボスに戦いを挑む事となった。





 外から覗いた中ボス部屋には、相変わらず骨巨人1体だけであった。

 その他の敵影は無し。

 これならば安全に戦いを挑めるだろう。



 今回用意された鉄球は13個。

 投げるためのロープは19セット。


 鉄球とロープの数が合わないのは、鉄球を回収してもう一度投げつけられるようにするため。

 前回使って分かった事の一つに、投げるたびにロープへダメージが入るという物がある。ロープの耐久値がものすごい勢いで削られているのだ。

 よくよく考えればこれは当たり前で、鉄球が骨を砕けばその断面はどう考えても鋭利になる。その鋭利な部分でロープに傷が入り、2回3回投げればロープはすぐに切れてしまう。


 手持ちの鉄球全部に最初のロープをセットして、すぐに投げられるようにしておいた。



 準備を整えた僕らは、中ボスの待つ部屋の中に入る。

 部屋に入ればすぐに骨巨人が反応し、僕らに向けて突撃してきた。そこに知性とか戦術といった言葉はない。猪のようなと言えば猪に失礼な、見事なまでに無策の突撃だ。


 初撃担当、囮役の僕は入り口付近で回転運動を始め、他のみんなは散開してからそれぞれ鉄球を投げる準備しだした。


「どっせい!!」


 僕は尾てい骨めがけて鉄球を放つが、残念ながら鉄球は狙った高さから上に飛び、わずかに骨巨人の背骨()から左にずれて、あばら骨2本を砕く事しかできなかった。


「外れたときは、もう一発!!」


 この場合、当たりが出ればそこで終わり。外してしまえばもう一発だ。


 当たった場所はあばら骨で、相手には致命的なダメージを与えられない。

 転ばせる事はできなかったが、たたらを踏ませほんの少し相手の動きを止める事に成功した。その隙に僕は次弾を投げようとする。


 その前に、足を止めた骨巨人へ四方に散った仲間からの鉄球投擲が行われた。

 当てにくい横からという事もあり、5発中3発が外れてしまったが、2発だけでも僕より多くのダメージを与える。

 腕を砕きあばらを折り。背骨にも少々ダメージを与えて勢いを失い、骨巨人の足下に鉄球が落ちる。……あれは、この戦闘中には回収できないかもね。位置が悪い。


「ぶっーー殺す!!」


 今度は某少年漫画のアメフト部のように、泥臭く意地汚く、敵を殺してでも勝つという意思を込め、顔面めがけて鉄球を放った。実際に殺す気でいるから間違ってない。

 投げられた鉄球は狙い違わず相手の頭の骨に直撃し――顎から下のみ弾き飛ばし、それだけで終わった。

 今度は高さが足りなかったようだ。具体的には10cmほど。



 鉄球の集中砲火により、骨巨人は誰から殺しに行くか迷ったようだ。

 ヘイト的な物は僕だけでなく、鉄球を当てた者たちの間で揺れ動き、誰を狙いに行ってもおかしくない状況を作る。


 最終的に狙われたのは、鞍馬だ。片腕を折った事が決め手になったらしい。



「鞍馬は魔法を使わず退避に専念! みんなは鞍馬に当てない位置の者から順に2発目!!」


 ありがたい事に、鞍馬は魔法で確実にヘイトを維持できる。ならば鞍馬を囮にと言いたいけど、足の速さを考えれば魔法を使う余裕はないだろう。今は逃げに徹してもらうのが最善と考えた。

 ゲームで言うタンクのように防御させるなどできはしないので、その考えは最初に捨てている。

 鞍馬は足下の鉄球を回収する事なく敵に背を見せ逃げ出した。



 そして僕は3発目の鉄球を手に取る。


 正直、鉄球投げは体への負担が大きい。

 2発投げただけ、それだけでも汗が全身から噴き出てくる。

 1発7kgぐらいの重さの鉄球を投げるスポーツ選手は筋肉ムキムキなんだけど、その筋肉には相応の理由があるという事だ。僕も最近は筋肉が付いて体重が増えているけど、それでも砲丸投げの選手のような域には至っていないのだろう。


 だが、それでも次を投げなければ鞍馬が危険だ。僕は疲れ軋む体に鞭を打ち、3投目を放つ。

 みんなも2投目の投擲に入った。


「また来て三角! さよなら四角ぅーー!!」


 ラストは戦後の広島原爆被害者漫画の台詞をそのまま叫び、再び頭を狙った。

 しかし僕の投げた鉄球は狙い通りに飛んでいったはずが他の誰かが投げた鉄球とぶつかり、破片となって周囲に降り注ぐ。そこそこの威力があったようで、骨巨人は全身をボロボロにして崩れ落ちた。

 鉄球の破片は逃げていた鞍馬の背中にもいくつか突き刺さり、鞍馬は血を流して倒れてしまった。


「鞍馬!? 誾、魔法で鞍馬の回復を!」

「お任せください!」


 首尾良く骨巨人を倒す事には成功したが、それで鞍馬が死んでは元も子もない。慌てて誾に魔法を使うように命令する。

 幸い、鞍馬の傷は誾が癒やせる範疇だったようだ。回復魔法を受けた鞍馬は傷痕一つ残さずに復活した。


「ブヒィー」

「すまなかったな、鞍馬」

「ブヒッ」


 「痛かったー」とばかりに息を吐く鞍馬に、僕は頭を下げる。

 すると鞍馬は「いいって事よ」とばかりに片手をあげて無事をアピール。その様子に僕も安堵する。


「まさか、鉄球が空中でぶつかるとはね。これは誰にも予想できないか」

「そうですね。不幸な事故としか言い様がありません」


 投げるタイミングとか、そのあたりは戦闘中だし臨機応変に動いていた。タイミングをずらすとか、そういう事をする余裕はなかった。

 だからこれは事故だとして、僕の謝罪もあったしそれで話を終わりにする。


 そのまま飛べば、全員無事に骨巨人を無力化できたんだろうけどね。まれにはこういう事もあるか。





 この戦闘では鞍馬の魔力を温存できたけど、もうこれ以上戦うといった空気ではなくなった。

 僕らは投げた鉄球やロープを回収すると、野営ポイントに撤収するのだった。 

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