表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーヴァーランダー  作者: 猫の人
ワールド・オーヴァー
166/290

食育の重要性

 食後、パックのお茶を飲んでゆっくりする。

 ちゃんと冷やしておいたから、ちょっと暑くなってきた時期やアツアツのラーメンを食べた後には、すっきりした味わいとともに心地よい冷たさを感じる。


 僕は割と早食いの()があるので、食べ終わった後は周囲を見ながらのんびりしている。

 食器の洗浄があるので、みんなが食べ終わるのを待っているとも言う。

 僕はお茶のお代わりをコップに注ぎながら、ほへーと気を抜いていた。



 そうやって優雅な食後を楽しんでいると、同じくラーメンを食べ終えていた誾が、険しい表情をしている。

 彼女の視線の先には、まだ若いゴブリンの一団がいた。彼らは仲間内で楽しそうにおしゃべりをしながら食事をしている。


「誾、どうかしたのか?」

「長様。それが……」


 どうにも歯切れの悪い誾を急かしてみると、どこか重い口調で誾は何があったのかを話し出した。


「先ほどのラーメン。味が微妙でしたが、彼らがスープに悪戯をしていたらしいのです」

「……ほう」


 あの一団は、まだ年若いゴブリンだ。

 ここで生まれ、ここで育ち、ここで学び、生きてきた。

 あの子らを我が子と言うには実感が足りないけど、身内という意識はある。

 その子供らが、悪さをした、と。


 僕は自分の目が細くなったのを感じた。

 きっとさっき漏れた声も、冷たくなっているに違いない。


「誾。あの子らは、あんなふうに楽しそうだけど。さっきの悪戯を話題にして、ああも盛り上がっているわけだね?」

「は、い……。その、とお、り、です」


 誾は顔を青くし、カタカタと震えだした。

 周囲を見ると、僕の近くにいるメンバー、要は信綱たち幹部なんだけど、その全員が手と口を止め、僕の方を見ていた。

 僕が怒っているのが分かるようで、視線を向ければ巻き添えになりたくないとばかりに顔をそらした。



 状況は、分かった。

 何があったのか、分かった。


 僕はコップをテーブルに置くと、音もなく立ち上がった。

 周囲のゴブリンが道を開ける。

 (くだん)の子供たちはそれに気が付かず、まだ楽しそうにお喋りをしている。



 彼らの近くには日本語翻訳できる秀雄(ひでお)がいたので、通訳として連れて行く。


「秀雄。彼らの会話内容を訳してくれるかな?」

「はひぃっ!」


 秀雄は僕の要請に従い、彼らの会話内容――僕の怒りを煽るような言葉を日本語変換していく。


 ――遊びが成功した。誰も気が付かなかった。

 ――知らず食べた連中の顔は見ものだった。

 ――次は何をやる?


 有罪だね。

 ギルティだね。

 極刑だね。

 ぶち殺してやろうかね。



 僕は個人的に、食べ物を粗末に扱う人間は嫌いだ。


 食べ切るつもりで注文し、食べ切れなかったのはしょうがない。

 頼んだ料理に苦手な食材があり食べれなかった、残してしまったのもしょうがない。

 不可抗力まで対応して見せろと言う気は無い。


 だけど、食べ物を玩具にする奴は大嫌いだ。

 「満足に食べることもできず、餓死する人もいる」とか、そういう綺麗事ではなく、幼い頃に祖父母から「食べ物をだだくさ(粗末)にしたらあかんよ」と言われ続けていたからだ。

 祖父母は戦後の生まれで食べる事に苦労した分、食べ物を大切にするよう僕ら孫に強く言い聞かせてきた人たちである。

 その薫陶を受けた僕だから、食事に悪戯をして遊ぶ悪ガキどもに本気で怒っているのだ。



 僕は悪ガキどもの後ろに立つと、こぶしを強く握り、悪ガキの一人の脳天に、無言で、全力で拳骨を振り下ろした。


「グギャッ!?」


 僕は悪ガキグループ5匹の脳天に、何も言わずに拳を振るう。


「そこのお前。縄を持ってきて」

「キュッ!!」


 僕は近くにいた他のゴブリンに命じ、縄を持ってこさせる。

 そして地面で悶絶する馬鹿どもを縛り、ミノムシの様にしてホームではなくダンジョンの木に吊るす。武士の情けだ、頭を下にすることはしない。やったら死ぬし。


 そいつらは翌日まで放置し、反省文のかわりに日本語で「ごめんなさい」を毎日1万回書かせることにした。

 ついでに、10日間は飯を半分にする。


 本当なら生きたまま猪の餌にしようと思ったけど、子供の悪戯という事で「かなり軽めの」罰だけで済ませる事にした。





 僕はこれまで、みんなが飢えないように注意していた。

 そのため、お腹がすかない毎日が当たり前になったからか、ここにいる皆は食べ物に対する感謝の念が薄いのかもしれない。


「食べ物を粗末にするなって、ちゃんと教えないとダメだね。食べ物を玩具にするなんてとんでもないよ」

「はい、その通りです!」


 今後の教育で、食べ物に対する感謝の気持ちを魂の根っこにまで染みつかせないといけない。

 誾や他の皆にもその事を話してみたけど、みんなも真剣な表情で同意してくれる。


「今度が無いように、食べ物で遊んだ馬鹿への処罰も規定しないとね。

 ……ちょっとぐらいは、厳しめに設定しようかな?」

「ふぐっ!?」

「グギャッ!?」


 誾や信綱らが驚いた顔でこっちを見ているけど、そんな馬鹿への罰なんだから厳しくても問題ないよね?

 なんで驚くかなぁ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ