濃厚豚骨ラーメン(失敗)
ゴブリンへのスキル付与を済ませたけど、EPがほんの少しあまった。
その時の手持ちが1038Pだった。
残高は38であるはずが、238だった。
必要EPの表示は1000Pだった。
200Pほど、計算が合わない。
「何故に?」と思わなくもないが、節約できたんだから気にしないことにしておく。
たぶん、才能とか何とか、必要EPを減らすような何かがあったんだろう。
今、考えたところで結論が出ないのなら、考える意味は無いのだ。
悪い事じゃないし、気にしても仕方がないよね。
僕にできる事は、夏に備えてウナギが捕れるようにしておくぐらいだと思う。
そんな事よりも、今は濃厚豚骨ラーメンが大切だ。
今回、僕は居残り組に僕らが帰ってくるのに合わせて、濃厚な豚骨ラーメンのスープを作るように厳命しておいた。
このゴブリン村も、人口が増えて量産の効率が上がりつつある。
昔であれば、ほんの数匹しかゴブリンがいないようであれば、バカでかい鍋でスープを煮るのは無駄でしかなかった。冷蔵庫もない状態だと、飲み切れなかったスープを駄目にしてお終いだ。
人数が増えればたくさん作っても一回の食事で食べきってしまえるし、同じものを食べることでより仲が良くなる効果も来た出来る。
なにより、たくさん作ったほうがおいしい料理も少なくない。
汁物系統は特にその傾向が強く、ラーメンスープなど寸胴鍋で作るのが当たり前なのだ。
そんなわけで、たっぷりの豚骨――実際は猪の骨――を使ったスープを作らせている。
それ以外にも、ダブルスープ仕立てという言葉にも弱い僕は、魚を砕いて作る出汁用の魚粉を1㎏ほど持ち込んで、これでもスープを作らせている。鯛の煮干し、1㎏で2950円(送料込み)。5㎏なら13750円なのでそっちを買おうか迷ったけど、お試しなので1㎏にしてみた。
鰹の魚粉は直接投入するパターンの方が有名だけどね、この鯛の煮干しは煮込んだスープをブレンドするだけにしておくよ。その方が事故が発生しにくいからね。
豚骨スープを作るのには、とても手間がかかる。
沸騰したお湯で10~20分下茹でし、流水できっちり洗う。手を抜くと血の臭いが残るんだよね。生臭くなるんだ。
洗った後はハンマーで粉々に。粉状にすることでお湯に溶けやすくなるんだ。
で、粉々の豚骨を沸騰したお湯で1時間ぐらい煮込む。こうするとアクが浮いてくるので、全部取る。
最近は専用の道具も増えたので、そこまで難しくないかな? ただ、出たらすぐに取らないと、鍋のふちにこびり付くので手早い除去が求められる。
アクが出なくなったら臭み消しのお野菜を投入。
ネギ・ニンニク・ショウガ・玉ねぎをたっぷり入れたよ。薬味は潰して野菜は形が残るぐらい適当に切るのが普通なんだけど、摩り下ろした物も少々混ぜるよ。
個人的に、僕はお野菜が溶け込んだスープが好きなのだ。
あとは3時間以上煮込み、白濁していれば固形物を濾して完成。
豚骨の量でとろみのつき方が変わるけど、今回は特濃なのでとにかく凄い。
通常は水と豚骨の比率を3:1にするのが常識なのに、1:1と馬鹿みたいに豚骨を投入したのでゲルっぽい。
蒸発した水量に合わせて水を追加するように言っておいたけど、それでも「濃い」。さすが特濃。
「鯛出汁で割ったら何とかラーメンスープに使えるかな?」ってレベルの濃さだったよ。
ちなみに。
豚骨の量が増えれば増えるほどにスープは焦げ付きやすくなる。
それを防ぐために、ずっと、休まず、一定のペースでかき混ぜないとダメなんだよね。僕らは人力で。
骨を粉々にする工程を入れているからまだいいけど、昔のそれをしない方法だと10時間とか20時間とか煮込まないとダメらしい。やっぱり、人力で。
現代の大手チェーン店なら機械化したスープ作成用の工場があるらしいけど、昔の人は大変だったんだろうね。
豚骨ラーメンは、わりと何度も作らせている。
骨の使い道を言い出すなら畑の肥料にも使えるんだろうけど、あんまり使ってもしょうがないし、僕らの農地はまだ狭い。外に固定化した猪の体からとれる骨はすぐに溜まるので、こうやって消費したほうが良いんだ。
ドングリ粉だけで麺が作れるわけじゃないから、僕の持ち込む小麦が無いと麺を作れないのもまだまだ改善の余地あり。
当面の目標は、ジャガイモを使って麺を作る事かな? なんか料理漫画にそういうネタがあったので、それを再現できるように頑張らせよう。
そんな難しい事は横に置き、実食。
「ん?」
「長様、何か苦みが強くありませんか?」
なんかちょっと、焦げた味?
スープの煮込みで失敗し、底の方が焦げてしまったのか、あんまり美味しくないね。微妙。
他の仲間の顔を見ても、「あ、これ失敗してる」と微妙な顔をしているのが何匹もいた。
ただ、スープの方はアタリハズレがあったのか、美味しそうに食べている奴もいる。
僕のは、苦笑いしたくなる味かな。食べれないほど不味くは無いんだけどね。
作った奴を呼んでスープを一口飲ませてみたけど、本人も驚きの結果だったみたいで、土下座して謝られた。
味見をしながらスープの確認をしていたはずが、なぜかお焦げの味がする。とりあえず本人はそう言って頭を地面にこすりつけていた。
一瞬、鯛出汁が失敗したのかと思ったけど、味見はちゃんとやっているのでそれは無いし。
何が悪かったのか、どこで失敗したのかは本人にも分からなかったみたい。
念のために寸胴鍋を確認したけど、底を見てもお焦げは無い。料理ゴブリンはちゃんと仕事をしていたようだ。
理由は不明だけど、微妙なお味の濃厚豚骨スープ。
いったい何があったんだろうね?




