ゴブリン進歩論②
≪錬金術≫スキルと一口に言っても、その効果については諸説がある。
一つは、『回復薬』などのアイテムを作るスキル。
某錬金術師のアトリエシリーズをベースにした考え方だ。
この考えは、クエストの中に「回復薬の作成」というものがあるので、一番根強い意見である。
もう一つは、古典的な錬金術師に関するもの。
簡単に言ってしまえば、生命創造と魂の進化だろうか。
もともと、錬金術の奥義とは卑しい物を尊い物へと変えるための手法である。人間という不完全なものから神への進化を遂げる事こそ最終目標であり、錬金術の言う黄金とは、神の魂とでもいうべきものだ。
これについては初期から選択できるスキルにそんな強力なものは無いだろうと、否定的な意見が多い。
他にも意見はいくつかあるけど、大きな方向性としてはこの2つだけを考えればいい。あとはその派生という訳だ。
正しい意見、覚えた者からの正解の解説が無いのは、いつもの情報制限である。もう慣れた。
≪錬金術≫スキルは自力習得の方法が分かっていないスキルなので、ゴブリンの1匹に覚えさせて様子を見ようと思う。
昔、始めたばかりならともかく、今の僕なら1000Pの捻出は不可能ではない。アタック1回で稼ぎきれる額だ。
……魚の追加が遅れるけどね。1回ぐらいは我慢しよう。
そんな訳でアタック73回目。
ゴブリンの集落襲撃とダンジョンアタックによりEP1000を稼いだ僕は、赤ちゃんゴブリンの1匹に≪錬金術≫スキルの付与を行う。
何気に、この手の付与を行うのは初めてだったりする。
一応、僕とゴブリンのスキル付与は別口としてカウントされるので、この付与が僕に与える負担はEPだけだ。
細かい事を言い出すなら、周囲の感情への影響かな? 自分もそういったスキルの付与をしてもらい、重用されたいっていう。絶対にしないけどね。
「長様、なぜ赤子にスキルの付与を行うのですか?」
「頭が柔らかいうちからスキルになじませたいから」
「せめて≪日本語≫スキル持ちの誰かにした方が……」
「下手に今の幹部クラスにスキルを渡すと、他への影響が大きくなりすぎるんだよ。「どこまで」「だれに」スキルを渡すのかの境界がはっきりしなくなりかねないんだ。
だから赤ちゃんっていう、本人の功績とか意思の関係ない相手が最適ってわけ。それなら僕の考えだけで、本人の希望が一切通らないからね」
僕自身、出来れば成人済みのゴブリンが良いと思ったんだけどね。すぐにスキルを使えるだろうから。
でも、そうなるとこれまでどれだけ頑張ってきたのかとか、そういった事情を無視できなくなる。
「こいつは武力で功績をあげたから」「こいつは魔法に適性があるから」なんて言い出したら、僕は何もできなくなるよ。
その点、赤ちゃんに無理やりスキルを付与するやり方なら、100%僕の意志だけで話が終わる。僕が付与しないと言ったって、赤ちゃんは不満を持たないからね。
要は、受ける側の主張を一切考慮する必要が無い相手であればいいんだよ。幹部連中に順位なんかを付けるのもナンセンスだし。
成長したら、また話は変わるけどね。
付与を受けたゴブリンは特別扱いされたと周囲から嫉妬の視線を受けるだろうから。
努力とは関係ない部分で優遇されている奴は、そりゃあキツ目の視線を受けるだろうね。
ただ、それでも矛先は僕に向かないし。上手くフォローしようとは思うよ。
そんなわけで、この「ヘルメス」の名を与えた子には期待するとしよう。
駄目だったら駄目だったで、また次の事を考えるだけなんだけどね。




