ゴブリン進歩論①
ゴブリンたちのスキルやアビリティは、正直把握するのが難しい。
なので、見逃しなんかもけっこうある。
「つまり、≪眼鏡魔法≫は眼鏡を媒介にする魔法じゃなくて眼鏡を再現する魔法なのか」
藤孝が≪眼鏡魔法≫なる謎の魔法を発現させてから、≪光魔法≫を覚えたゴブリンがいた。
そっちもかけた眼鏡からビームを出すんだけど、その方法が違ったのだ。
≪眼鏡魔法≫は「光を収束・屈折させてレーザービームに変える魔法」で≪光魔法≫は「光を制御してビームを出す魔法」だった。
これだけ見ると似たようなモノだけど、ニュアンスが違う。と言うか、かなり違う。
≪眼鏡魔法≫だと「その場にある光を制御するしかないし、一回出した光に干渉する事ができない」のに対し、≪光魔法≫であれば「何もないところから光を作る事ができ、撃ったビームをねじ曲げる事も可能」なのだ。物理法則の無視の仕方から、応用範囲がまるで違う。
そうなると≪眼鏡魔法≫は≪光魔法≫の下位互換のように見えるけど、そうではない。
ビームを出すのはあくまでネタでしかなく、「光量調整」「暗視」「視覚拡大」「望遠」など、視界を調整するのがメインの魔法だったのだ。あとはプロジェクターのような事もできる。
そして効果対象が自分以外でも問題なく、消費が少なく制御もしやすい。使い勝手が非常に良い。
藤孝は元々信綱の補佐で、鍛冶に携わっていた。
そうなると鍛冶の時に炉の強い光を見る機会が多く、僕はあまり考えていなかったけど、視力に大ダメージを受けていたわけだ。
≪眼鏡魔法≫はそんな藤孝の自己防衛本能が働いた事で習得に至ったのかもしれない。
生き物は、必要に応じて能力を獲得するのだ。
他の変わり種としては、≪絵画≫や≪楽器演奏≫のような芸術系スキルだろう。
白ゴブ姫の登場が与えたインパクトの中には芸術方面のモノもあり、白ゴブ姫の姿絵などが描かれるようになったり、気を惹くための演奏なども行われるようになっていた。
絵の方は僕が持ち込んだ本のイラストなども関係している。
今の主流はデフォルメした物よりも写実的な物が好まれる。そのうち抽象画とかも流行るのかな?
楽器演奏はハープ? リュート? 馬頭琴? 琵琶? 楽器には詳しくないのでよく分からないけど、木の枠に糸を張った楽器が数種類作られている。
どうせだからと竹があるので竹笛なんかも勧めてみたけど、こっちは音が微妙と人気がない。太鼓も女性の気を惹く楽器じゃないからねぇ。“楽器としては”扱いが悪い。
他には木琴やカスタネットなんかも作らせてみたけど。弦楽器の方が人気があるみたい。
便利系としては≪不眠不休≫という疲労に強くなるアビリティ持ちや≪調薬≫という薬を作れるようになるスキル持ちも見つかった。
≪不眠不休≫は分かるとして、薬が作れるようになるというのは、正直なところ、全く考えていなかった。
なぜか?
EPで買える『回復薬』があるからだ。
『回復薬』のような超効果の薬があると、普通の薬の出番がなくなると思っていたのだ。
しかし、ゴブリンたちは『回復薬』に頼る事なく生きていくため、細かい怪我用に自作の薬を使うようになっていた。
『回復薬』という薬を知る事で、怪我などに効果的な物が存在すると知った事が薬を作り出す発想の元となっている。
僕はチートが発展を阻害すると考えていたけど、現実はチートがきっかけとなって次に進む事もある。
そこは僕の考えが浅かったみたいだ。
そうやってゴブリンたちも徐々に進歩していく。
それなら、と僕は考える。
そろそろゴブリンたちの中に、新しい刺激を与えてみよう。
僕は生まれたばかりのゴブリンベイビーに視線を向ける。
この中の1匹に、≪錬金術≫スキルを与えてみよう。




