猪の解体
「死ぬかと思った」
猪って、ゴブリンよりも強いんだよね。
付け加えるなら、僕よりも強い。
で、そんな猪と戦うなら、僕も命がけになってしまう。
突進を運よく避ける事に成功して、その突進の影響で猪が木に頭をぶつけて、ちょっとの間だけでも行動不能になってくれたから僕は死なずに済んだわけだ。
弱者と強者が戦うなら、弱者は策を弄し、罠を張り、装備を整え万全で迎え撃つしかない訳なんだよ。
猟銃とか持ち込めればいいんだろうけどね。僕は猟銃免許を持っていないからそっちは無しかなぁ。
それに、猪を持ち帰れないなら赤字になっちゃうし。
猟銃を使うのも、維持をするのも、買うのも、全部お金がかかるから簡単には出来ないんだよね。
さて。
猪を確保した事だし、僕は解体の為に猪をホーム近くに掘った穴まで持っていったわけだけど。
これがまた、とても疲れる仕事だった。
運搬用の道具も何も持ってないからね。重量70㎏ぐらいの猪を持って帰るのは本当に大変だった。
現地で血抜きして70㎏って事は、もとは100㎏あったんじゃないの?
わりと大物なんだろうね。
僕は猪を穴に放り込む前に、近くで焚き火を始めた。
枯葉はたくさんあるからね。30分も頑張れば焚き火の燃料はかなり集まるよ。箒や熊手が欲しいと思ったけど、似たようなものをこちらで作るのが良いかもね。簡単な物ならそこまで手間じゃないし。
火の中で石を焼き、これで湯を沸かすつもり。焚き火の上で、鍋を使って4リットルほど沸かしもするけどね。メインはこっち。
僕は穴に水を6リットルほど入れ、ちょっと大きめの木材で作った簡易皿の上に焼いた石を置く。
それを何度か繰り返すとお水はお湯になり、熱湯へと変わる。
お湯が僕では触れないほど熱くなったら、ようやく猪を放り込む。
合計10リットルのお湯では半身浴と言うか、足湯程度の分量しかない。けど、一度に全身をお湯に付ける必要はないんだから構わない。
僕は猪を反転させて、お湯に浸かった所をスコップで擦る。熱いからね、素手では触れないんだよ。
毛はなかなか抜けてくれないけど、全く抜けない訳じゃない。
気合と根性で、3時間以上かけて何とか全身の脱毛を終えた。
途中で焚き火用の枯葉や枝なんかが無くなって補充しに走り回ったり、とっても熱いお湯が手について叫んだり、ゴブリンが乱入したり。
無事に、とは言えないけど、何とか脱毛はできた。
その後の解体で内臓を傷つけて大惨事になったり、首を刎ねるのに手間取ったりしてその日のうちに終わらなかったけど、解体も何とかやってのけた。
動画では全部で2時間もかかってなかった作業なんだけどね。僕は手際が悪いから。効率が10倍も違ってきちゃうんだよ。
ただ、その苦労が評価されたからか≪解体≫スキルが手に入った。
≪解体≫は≪料理≫関係だからかな? 入手難易度は知らないけど、一回で生えてきた。
次回はもっと短い時間で解体できるだろうし、回数をこなす事こそ成長の唯一の道なんだから。猪の解体は、クエストが無くてもできるだけやる事にしよう。
とりあえずもも肉だけ確保した僕は、「先にももだけ切り分けて、そこから肉を取り出せばもっと早く終わったんじゃないかな?」と全身を解体した無駄に気が付き落ち込みつつ、今回の件を次回以降に活かすことにした。
動画が全身解体だからって、僕まで全身を解体する必要は無かったんだよね。
少なくとも、保管用の冷蔵庫や同行者がいなければ10㎏以上の肉は不要なんだし。5㎏でも厳しいよ。
今回の反省は、目的と結果をもう少し考えて行動する事、かな。
動画とか、参考にはなるけどそのままやらないといけないってことも無いし。
せめて塩漬け肉にするとか、常温保存の何かを手に入れるまでは頑張らなくても良かったよね。
あと、やっぱり人手が欲しいなって思ったよ。
それと、ダンジョン内に水場が無いかの確認もした方がいいかな。
やりたい事とやらなきゃいけない事はどんどん増えるね。
人に自慢できるぐらいの立派な稼ぎが欲しければ、まだまだ頑張らなくちゃ。
先は長いね。




