報道問題
中国はゴブリンの野生化に続き、もう一つの深刻な問題が顕在化しようとしていた。
それは、元オーヴァーランダーのプレイヤーが何人も破産しているという問題である。
オーヴァーランダーのプレイヤーは短期間で数千万円稼ぐことが可能である。
これはどの国でも同じ条件であり、例外は無い。
よって、「オーヴァーランダー成金」と呼ばれる似非金持ちが大量発生した。
通常、金持ちというのはそのほとんどが、金を増やしていく段階で金の使い方を覚える。
例えば会社経営などで一攫千金を成しえた者であれば、「会社運営」という金の使い道を知り、5人に2人ぐらいしか破産しないものである。もっとも、残る3人のうち2人は破産こそしないものの、財産を失う事が多いのだが。
つまり、リアルでお金を稼ぐ者はお金を使ってお金を稼いでいるという事である。
これがオーヴァーランダー成金には当てはまらない。
食料品や武器防具の購入代金こそあるものの、彼らの稼ぎは命がけの冒険によるものだからだ。
こうなるとお金の管理を学ぶ機会をあまり得られず、支出のペース配分が狂ってすぐに稼いだ金を使いきってしまうのだ。
しかもオーヴァーランダーを「卒業」しているため収入を得る手段に乏しく、破産、破滅へと転がり落ちてしまう事が非常に多い。
そういった破滅した人間は元の職に戻ることもできず、覚えた贅沢を忘れることができない。
彼らは自殺するならまだマシで、それよりも強盗殺人などの罪を犯すことが多かった。中国都市部は治安が一気に悪化したのである。
この問題は中国だけでなくアメリカなどの他国でも散見されている。
ただ、中国は短期間で大きく成功した元オーヴァーランダーのプレイヤーが多いために問題がより大きく取り扱われるという話だ。
逆に日本人はそういったプレイヤーの数が少ないので問題が表に出てこないといった事情がある。
そんな問題を抱えた中国で、日本のとある番組が注目を浴びた。
それは野生化ゴブリンの可能性について論ずる番組であり、ゴブリンという有益な、友好的な隣人について取り上げられた番組だ。
番組内ではゴブリンを雑魚モンスターではなく、話せば分かり合える隣人であると定義し、彼らゴブリンの有用性について説明したものだ。
中でも「自分たち人間と同じように扱えば、ゴブリンは期待に応えてくれる」「意思の疎通は可能であり、スキルに頼らずとも言葉を交わすことが可能」とした上で、「逃げ出し野生化したのは問題となった業者が悪い」と断言したことである。
一般的なゲームやライトノベルでは、ゴブリンというのは邪悪な妖精族として扱われることが多く、善性を持つ種族とは言われない。全く無いとは言わないが、少数派であることは確かである。そして雑魚であり、頭が悪い蛮族としても扱われる。
この事はオーヴァーランダーでの扱いを見ても確かなことで、世間一般の認識と言っても差し支えなかった。
そのため、この番組の内容は中国を馬鹿にするための、いわゆる「やらせ」であると判断された。
この番組は「分かり合えるはずの隣人であるゴブリン」を「嘘の情報で持ち上げ」「非人道的扱いをした中国(の業者)を悪と断じ」、「分かり合えるのだからゴブリンを排除するべきではない」といった風潮を作り上げ、「中国国内をゴブリンによって蹂躙させる策略」であるといった流言が行われた。
「証拠として挙げられたいくつかの動画は合成であると専門家が断言した」という言葉も、誰の口からともなく扱われるようになる。もちろんどこの誰が言ったという肝心な情報は流れないままに。
ネット上の流言は真実であるかどうかにかかわらず、共感できるかどうかだけで拡散する。
世の中への不平不満が多くありながら、その発散する場が無い。
そういった状況ではそこに殴っていい相手がいるというなら殴りに行くのが大衆だ。正義を振りかざし、とにかく誰かをサンドバッグにしないと気が済まない連中なのだ。
そして与えられた餌には嬉々として食いつく。
国境も、思想も、全てを超えて自分が間違っていないと主張する。
なお、この番組に出演したプレイヤー。
その名を、新田有仁という。




