フロア3の中ボス⑥
僕と信綱、骨巨人の位置取りは少し拙い。
僕が骨巨人に向けて鉄球を投げる分には問題ないのだ。僕は入り口付近で、骨巨人はそのすぐそばの壁に頭から突っ込んだ状態だからだ。
信綱を正面と考えると、骨巨人は真横にいると言っていい。
逆に信綱が骨巨人に向けて鉄球を投げた場合、僕と骨巨人が横並びに近いため、僅かな誤差で僕に向けて鉄球が飛んでくる可能性がある。
付け加えると、鉄球投げに関しては、僕以外はあまり練習していない。有益な攻撃手段ではあるが、リスクの方が大きいと思う。
しかし僕はすでに鉄球に遠心力を上乗せするために回転運動を始めてしまった。
さっさと投げてしまいたいけど、全身を使うこの回転は簡単なものではない。途中でやめるのは難しいし、勿体ない。焦らず、十分な力を乗せて投げた方が良い。信綱が鉄球を拾って投げようとしたとしても、まだ時間的な余裕はあるはずだ。
それに、信綱は僕の所まで鉄球を持ってくるかもしれないし。
……自分で言ってみてアレだけど、その可能性は無いだろうなぁと、僕の知る信綱の性格を思い出して苦笑いする。
そんな事を考えている間に信綱が鉄球を回収し、僕は二射目を骨巨人の頭蓋骨に向けて投げつけた。
人間の2倍以上の大きさの頭と言っても、横になった状態だと頭の高さは50㎝ぐらいしかない。つまり膝下に向けて鉄球を投げないといけないのだ。割と、狙いにくい。
ただ、相手の首やあごの付け根のあたりに向けて鉄球が飛んでいったため、非常に躱しにくい場所を攻撃できた。
これが頭頂部のあたりであれば顎を持ち上げることで回避できたかもしれないが、顎の付け根では体を起こさないと確実に当たる。なかなか運がいい。
骨巨人は僕の方に顔を向けたが、鉄球は顎を割り、そのまま首の骨を砕くことに成功した。頭蓋骨と胴体の骨が分断される。
「鞍馬は頭蓋骨狙い!! みんなは胴体狙いで信綱の鉄球に意識半分!!」
「プギー!!」
鉄球を投げた反動で体勢の崩れた僕だけど、回転運動を始めた信綱に危機感を抱き、骨巨人から距離を取るように動く。
入り口から通路側に離れ、信綱とは壁を隔てるようにして安全を確保する。
ついでに鞍馬に首から離れた頭蓋骨を狙うように指示を更新しておく。
首から上だけが完全に浄化されれば、あえて胴体の弱点を壊さなくても何とかなると思う。たぶん。
それに頭蓋骨だけなら、浄化に使う魔力も最小限でいいと思うのだ。
あとは頭蓋骨と胴体が一括のHPではなく部分ごとのHPを持っていて、部位破壊のような事ができるのを祈るだけである。
僕の指示を受けた鞍馬は頭蓋骨に連続して魔法を使う。
信綱の鉄球は練習不足がたたり明後日の方へ飛んでいき、部屋の隅っこに転げ落ちた。
他の仲間は胴体を狙いポーラで少しでも足の動きを封じようとしている。
ついでに信綱の鉄球が自分の所に飛んでこないことをチラチラと確認していた。自分の所に来ないのを確認した後はそのままポーラを投げるのに集中している。
信綱も鉄球を投げ終えた後は普通にポーラを投げだした。
鞍馬の魔法が打ち止めになると、骨巨人の動きがかなり鈍くなっていた。
壊れた顎を動かし僕らを威嚇するも、胴体側は完全に沈黙している。
動かないのがフェイントで、近寄ったらいきなり腕が攻撃してくる可能性があった。
なので、とどめとばかりに僕は手持ちの武器、バールを骨巨人の頭蓋骨に投げつける。距離があると威力が減衰するので、相手の腕が届かない位置から安全に攻撃してみた。他の仲間も僕に倣い、同じようにする。
最初の一発の後はまだ動いていたが、何発も当てると動きが鈍くなっていき、最後には完全に動かなくなった。
それを確認した僕は、それでも油断せずに荷物を回収し、もう一度鉄球も当てなおしてから宣言する。
「僕らの、勝ちだ!!」
目の前には、粉々になった骨巨人の残骸。
少々やりすぎた気がしないでもないが、それでも僕らのテンションはかなり上がった。




