マイナスの華
アヒルを抱えて地上に戻ってくると、ホームの方がずいぶん騒がしかった。
「何事?」
僕らが慌てて騒ぎの元へと行くと、数匹の雄ゴブリンがケンカをしていた。
いや、ケンカしているのは2匹だけで、そのほかの連中はそれを止めようとしている。問題の2匹を引き剥がし、羽交い絞めにしていた。
「誾、説明を頼む」
僕は誾に頼み、状況を把握するよう努めるのだった。
ケンカの原因は、白ゴブ姫が“間接的に”関わっていた。
僕は日ごろの成果を、チーム単位で評価する。
数匹でチームを作り、そのチームが挙げた成果を見るのだから、それ以外のやりようは無いと思う。
そうなると普段はチームで協力し合い、助け合いの精神で頑張ってくれていた。
ただ、白ゴブ姫という景品が出てきたことで助け合いの精神は廃れてしまった。
手の遅い仲間に対し、足を引っ張るなと罵り合いになったというのだ。
今までも頑張った連中には少し豪華なご飯を与えていたけど、白ゴブ姫のインパクトには敵わなかったみたいだ。世知辛いね。
まずやるべき事は、ケンカへの裁定だろう。
「ケンカを止めようとしていた仲間は、無罪。むしろ止めようと頑張ったことに対する褒美を出す。
ケンカをしていた2匹は有罪。しばらく飯の量を減らす」
僕の言葉に、ケンカをしていた2匹ががっくりと項垂れた。
残りのケンカを止めようとしていた連中はほっとした様子。巻き添えをくらわずに済んで良かったと思っているみたいだ。
今回は冤罪とかではなく、現行犯だからそこそこ厳しい対応をしてみた。
飯抜きの罰は一回限りの軽めの罰で、飯減らしは複数回続く重めの罰。この間、法律を作ろうと決めた時にそう決めた。
中途半端な空腹がしばらく続くっていうのは、割とキツい。飯抜きほど衰弱しないので仕事にも大きな影響を出さずに済むし、使いやすい罰則として重宝することになるだろう。
当たり前だけど、仲間殺しと放火は重罪で、やったら死刑一択である。
その辺は日本の法律に合わせてみた。
ご褒美関連はまだ適当だけど、基本は食事のグレードを上げることで対応するつもり。
今の村は個人所有の概念が弱いから、武器や防具の良い物を渡すってのもまだ難しいんだよ。下手すると悪意無しで持って行かれかねない。
褒美に出すなら装備品よりも消耗品、消耗品なら食料品が一番なのだ。
当たり前だけど、この件で白ゴブ姫にはお咎めなし。
本人が煽ったわけではないし、景品に無理やり据えたのは僕なのだから、次に悪いのは僕なんだよね。采配ミスってやつだ。
この先はどうしようかななんて考えたけど、基本は現状のままで行くことにした。
個人競争の概念は進歩に必要な考え方だし、今回みたいなケンカは勘弁だけど、より上を強く目指すっていうのは良い事なんだし。
それに、これまでがイージーモードだっただけなんだ。
人間の集団であればケンカも競争も普通にあるんだから、社会を作るっていう行動を起こすのなら、この手の揉め事はいずれ起きるんだ。今の小さい集団のうちに経験しておくことは悪い事じゃないと思う。
ゴブリンの欲を刺激する白ゴブ姫。
僕らの集団にマイナス方向を生み出す根源だけど、きっと僕らが次のステージに進むうえで必要になるキーキャラクターなんだ。
信綱や誾ともしっかり話し合って、清濁飲み干す気構えを持とう。
組織運営は綺麗ごとだけじゃないんだから。




