亀裂
時間の経過っていうのは、人の苦悩を忘れさせる薬になることもあるけど、単純に物事を悪化させることもある。
少なくとも、白ゴブ姫の影響は、悪化の一途を辿っていると言っていい。
「またですか、あの雌がっ!」
「殺処分も視野に入れないとダメだね、これ」
「ご命令があれば、今すぐにでも」
「冗談だよ。その時はダンジョンに放逐するさ」
白ゴブ姫は、トラブルメーカーだった。
人格がまともというか、本人自身はそこまで悪くない。有用そうな魔法――≪植物武器化魔法≫という珍しい魔法を使えたので、出来る事なら戦力として組み込みたいと思えるサーヴァントだった。
ただ、周囲の雄が絡むと面倒ごとを発生させる、組織運営の害悪でしかなかったんだ。
通常、サーヴァントは僕の指示を優先して動く。
ただし、僕とサーヴァントの間にある程度の信頼関係が無いと、サーヴァントは野生化し、逃げ出すらしい。僕はこれまで上手くやっていたので、そんな事態になってないけど。
でも、白ゴブ姫がいることで話が大きく変わる。僕の指示を逸脱しない範囲で、白ゴブ姫の気を惹くようになったんだ。
仕事の合間、休憩時間に白ゴブ姫の所に雄ゴブリンが向かう。ここまではいい。
だけど雄ゴブリンの数は多く、休憩時間も一緒のタイミングで取らせているから雄ゴブリン同士でケンカになる。本人も止めようとしているけど、止まる気配が無い。
アホかって言ってやりたいけどね。そこで止まれないのが男女関係、恋愛感情論なんだよ。
ぶっちゃけ、出来る事なんて白ゴブ姫の排除ぐらいしか思いつかない。
「ほら、解散しろ! ケンカしてるんじゃない!!」
「ギュゥ~」
仕方が無いので、上位者として僕が出張ることになる。本当なら信綱らに任せることができれば次善なんだけどね。
「信綱?」
「ギャウッ!?」
「仲間がケンカを始めたら止めるように」
「ワカッタ、オサ」
悲しい事に、信綱ら幹部クラスまでもが影響範囲だったりする。
多少は僕の命令を優先し、言われたことを守ろうとする。
けど、そこまで。
白ゴブ姫と仲良くなりたい思惑と、僕からの命令で板挟みで動きが取れなくなっている。
考えたくはないけど、下手に白ゴブ姫を排除すると僕に反旗を翻しかねないんだよね。
そんな状態に誾が面白いと思う訳もなく、誾は義姫ら雌ゴブリン一同で反白ゴブ姫の集団を作りつつある。
今は愚痴を言い合う会合を持つだけで具体的に何をするってわけでもないけどね、このままいくと、僕のサーヴァントは身内で争うようになる。
ちょっと前まではみんな仲良しの、僕を頂点とするまとまった集団だったはずなのに。
本当、どうしてこうなった?




