ニワトリ、のちに鉄
ニワトリが暴れているけど、僕は気にせず嘴の先端を切る。
あまりの叫び声に耳が痛いけど、だからと言って容赦はしない。ケンカで他のニワトリを傷つけるような嘴など、必要ないのだ。
バサバサとはばたく翼もなんのその、嘴を切り終えれば足の爪も尖った先を切ってしまい、それから解放する。これで今後は怪我をさせるようなケンカもできなくなるだろう。
1羽の処置を終えて次の獲物を探してみれば、慌てて僕から逃げ出すニワトリたちが見えた。
1羽たりとも逃がさないよ?
僕は壁を越えようと必死にあがくニワトリの首根っこを摑まえると、容赦なく「処置」を進めていった。
こういった処置関連は、ネットでもあまり情報が出回っていない。
僕の場合は親せきに養鶏場を営んでいる人がいるので、そこから情報をもらった形だ。夏場にバイトで鶏糞処理を手伝ったこともあるよ。ただでさえ肉体労働できついのに、暑さと臭さで死にそうになったけど。
本当ならこういった処置はヒヨコの時にやるんだけどね。もう育っているんだから、ダメージが大きくなるのもしょうがないよ。
全てが終わったころには、ニワトリたちは痛む傷を耐えるためか、それとも同じ境遇の仲間と慰め合っているのか。処置後の6羽は団子のように固まっていた。
そして僕が視線を向けると、びくりと体を震わせる。
このニワトリたち、結構頭がいいよね。
それだけ頭がいいというのに、なんでイジメなんかをするかなぁ?
頭の良さとイジメをする・しないっていうのに関連性は無いのかな? 無いんだろうね。
人間もそうなんだし。悲しいけど、生き物だとイジメをするのもしょうがないんだろうね。僕はイジメをするなんてアホらしいとしか言えないけどさ。
僕が生き物の業って奴に頭を悩ませていると、信綱が金属製の棒を持ってやってきた。
「オサ! デキタ!」
「へぇ。良い感じじゃないか」
信綱が持ってきたのは、これまでに集めた鉄で作った「ただの棒」だ。
僕はその作品の出来に、大いに感心した。
ただの棒の何が凄いのかというと、金属の質が均一になっている点だ。
表面はデコボコでザラザラ太さもまちまちだけど、質の良くないインゴットを使って、原始的な設備で作ったと考えれば、かなり難易度は高かっただろう。信綱の苦労の跡が窺える。
軽く振り回してみるけど、重さは十分、申し分ない。
あとは先端を加工すればバールのようなものになるし、皿を付ければスコップのようなものになる。
こちらでの鍛冶仕事としてなら、及第点を付けられるだろう。十分に実用的な品が作れる環境になったわけだ。
素人が金属を得てからたった2ヶ月か3ヶ月という短い期間でここまで成長したのだから、信綱はどれほど頑張ったのだろうなと考えてしまうね。スキルの恩恵を考慮しても、並大抵の苦労ではなかったと思うよ。
この金属の棒は信綱の初の作品になるけど、実用品として作ったのだから、次回の迷宮探索に持って行こうかな。
スコップじゃないので≪スコップ術≫の適用範囲外だろうけど、頑張ればバールのようなものにできるだろうし、≪バール術≫なら効果があると思う。
問題は強度だけど、スケルトンはただの骨、そこまで硬くないので問題ないだろう。
念のため、こっちにある錆びた剣と打ち合ってみればどれぐらい使えそうかわかるよね?
中までぎっしり詰まっているのでスコップよりもかなり重いけど、こっちで装備品を作れるようになれば、また日本から持ち込む荷物を減らせるんだよね。
持ち込む物が少なければ、また新しく別の物を持ち込める。
今度は何を増やそうかな?
僕の楽しい悩みは尽きることなく、ついついいろいろと考えてしまうのだった。




