ニワトリ
ニワトリ。
宝箱の中から、ニワトリ。
うん。控えめに言っても訳が分からないね。
僕らが来るのが遅かった場合、宝箱の中で死ぬんじゃない?
触ってみれば、熱いぐらいの体温。生きているね。
……なんで生きてるの? 小動物って、結構な頻度でご飯を食べないと死ぬよね。箱の中だと死なないとか? ダンジョンの中だと餌が要らないとか?
考えても分からないよ。
考えることを放棄した僕は、列の中で宝箱を背負いながら歩いている。
「敵はお任せください」
「オレ、タタカウ!」
戦闘は信綱と誾が請け負う事になったので、誾の荷物を小分けにして中・後列のメンバーで受け持っている。前衛は荷物など持たず、すぐに戦えるようにするべきなのだし。
戦闘の中核となる信綱は、より強く責任を負う事になったことで、いい感じのテンションになっている。信綱は自由にやらせるより、責任などで縛ったほうが輝くタイプなのかな?
そういえば、誾も似たようなタイプなんだよね。放置するよりちょっと束縛強めの方が喜ぶタイプ。
似た者同士だねぇ。
もっとも、帰りの戦闘は温めなんだけどね。
戻れば戻った分だけ敵は弱くなるんだし。
帰りは順調だ。
戦闘回数は少なく、敵が弱い。
地図はちゃんと記録してあるし、迷う事などない。
分かれ道のたびに来た道の壁へ落書きをしていることもあり、道を間違えるなどありえない。
フロア3を探索した時間など大したことが無かったので、その日のうちに迷宮を出ることができた。
ただ、戻ってきたのは夜で、夕飯を食べたら自由時間と言ったありさまである。
歩き疲れていたこともあり、この日は早々に寝ることにした。
翌朝。
僕らはニワトリの鳴く声で目を覚ました。
さすがニワトリ。朝日を浴びるとコケコケ鳴くんだね。近所迷惑、騒音公害だよ。もう少しゆっくり寝ていたかったんだけどなぁ。
ニワトリの処遇だけど、昨日は誾に預け、畜産担当の刀に引き継ぐようにお願いしておいた。
ニワトリは箱の中、暗い場所だと騒がないとはいえ、ストレスがたまるのは良くないとどこかに放すのが決まっていたんだよね。今日のうちに土地を追加して、ニワトリ用の放牧地を作る気でいたけど。
ニワトリは小屋で飼うのではなく自由に歩ける広い場所で飼わないと、すぐに病気になるらしいよ。
土地購入メニューを見ると、通常の土地、畑(通常・上質)などのほかに、『放牧地(荒地)300P』『放牧地(草原)600P』『放牧地(樹林)1200P』が追加されていた。
ニワトリを得たことで条件解放されたみたいだ。猪では解放されなかったのに、なんでだろうね?
購入する気にならなかったので、普通の土地6つと水場1つを購入し、レンガや板で柵を作るように指示を出す。寝床は……枯草でも敷いておけばいいか。あとは宝箱でも置いておく。
餌は雑穀とかでよかった気もするけど、手持ちだとドングリぐらい? またドングリの価値が高騰するね。猪の分はどうしよう?
ニワトリの様子を確認してみると、6羽とも作りかけの家の一つの中に放り込まれていた。
困ったことに、ニワトリは一晩という短時間で大量の糞をまき散らしていて、家の中は凄い事になっていた。あとでこの家を使うゴブリンは涙目だろうね。
でも、それはいいんだ。
全く想定できなかった事じゃないし。
それよりも困ったのは、6羽中の1羽がボロボロだったことだ。
雄鶏が1羽、イジメられていたのである。
ニワトリはわりとストレスに弱い。
そしてストレスがたまると、弱いニワトリをイジメ殺す習性がある。ボロボロの1羽はその生贄にされたのだろう。
このイジメ問題、どうするかなぁ? ではない。
僕はニッパーを片手に、ニワトリに必須の処理をすることにした。




