冒険者ギルドの『異世界人』
「そりゃお前、普通の屋根は、木組みの枠を使うぞ。後は瓦とか、藁葺きとか、目的に応じて屋根を選ぶんだ」
屋根の件をギルドマスターに相談してみたら、そんな返事が返ってきた。
「やけに詳しいですね」
「ああ。そういえば、ギルド所属の冒険者の話はしていなかったな」
冒険者ギルドのギルドマスターに、ホームで家を自力で作っているという話をしていたら、思いのほか、食いつきがよかった。
僕は何がそんなに気に入ったのか分からず意識が逸れていたので、つい思った事を口にしてしまった。
するとギルマスは「すっかり忘れていた」と苦笑いをしてから、真剣な顔をして僕を見た。
「冒険者ギルドに所属する・しないに関わらず、プレイヤーは4パターンに分けられる。
一つ目は、オーヴァーランダーの世界こそ本当の世界と称する、『異世界人』。
二つ目は、オーヴァーランダーを仕事と割り切る、『勤め人』。有仁はここだな。
三つ目は、単純にゲーム感覚で冒険を楽しむ、『エンジョイ勢』。
四つ目は、引き延ばされる時間を利用する、『副職組』。
まぁ、他の分け方もあるけどな。
冒険者ギルドとしては、この分類をよく使う」
ギルマスは指を折りながら、4つのカテゴリを提示した。
だいたい言いたい事は分かる。
目的別の分類でプレイヤーを選り分けているって話だよね。
「で、だ。
冒険者ギルドに所属する連中は、大半が『異世界人』になる。
彼らは向こうでの生活の合間にこっちに戻されているけど、こっちでの生活なんて、どうでもいいんだ。こっちで1日飲まず食わずでも死にはしないし、大きく体調を崩す事もあまりない。
だけど、わざわざ苦行のような生活をする気も無い。
そこで冒険者ギルドがこちらでの一般生活のサポートをすることを対価に、所属してもらっているというわけだ」
ギルマスの話では、冒険者ギルドでは簡単なネット環境完備のカプセルホテルというか、本当に寝て、食べて、ネットをするだけの環境を用意しているらしい。
部屋の掃除などはもちろん、メールや電話一本で食事や物資の用意をしてもらえるような、こっちの生活を捨てている人間にとても都合のいいアパート的なものを経営しているとか。
そうだね。
ホテル暮らしのような環境は便利だろうねぇ。
僕は家の掃除とかを業者に頼んでやってもらっているけど、日々の細かい掃除とかは全部自分一人でやっているし、買い出しも自分の仕事だ。割とこっちでは自由時間が無い。
その手間をほとんど省けるなら、確かに便利だね。
「異世界人の特徴として、向こうで住環境を整えるのは当たり前なんだが、自給自足を楽しみたがる奴も多くてな。家を作ったり、農業を始める奴もいる」
「ちょっと待って。農業って、失敗ばかりで向こうではできないって話を聞いた事があるんだけど?」
「情報制限の一つだな。畑を購入してない奴には分からないんだよ」
冒険者ギルドのパンフレットで、農業はできないって話が載っていたのを思い出す。気候の変動周期が地球と違うから、うまく育たなかったり実らなかったり枯れたりするって。
話が違うと声を上げれば、運営による情報規制に引っかかっているだけだと返された。
……今度、もらったパンフレットを読み返してみよう。
「話を続けるぞ?
そうやって自称スローライフ、ただのサバイバルを楽しむ奴が異世界人には多いんだよ。
おかげでこっちまでその手の知識に詳しくなるって、ただそれだけの話なんだ」
言われてようやく納得する。
某アイドルとかの真似を、日本でやるのは非常に難しい。
お金がかかるし、時間が捻出できない人は少なくないはずだ。普通なら仕事があるからね。
でも、オーヴァーランダーの世界でやるなら話が変わってくる。
プレイヤーの時間は、地球では全く必要ない。体感的、寿命的な意味では普通に時間を使うんだけどね。地球時間では0秒の世界だ。デテキント切断の世界だよ。
つまり、時間的制約は考えなくていい。
金銭的なものもあまり考えなくてもいい訳だから、それならやる人間が増えるのも仕方が無いね。
あれ?
エンジョイ勢の方が、そういうことに手を出しそうな気もするけど?
「そっち系の奴は、冒険者ギルドにいないからなんとも言えないな」
「そうですかー」
まぁいいや。僕には関係ないね。
その後、僕はギルマスから使えそうな知識をいろいろと教わった。
と言っても、ギルマスも僕の相手ばかりしているわけにはいかないから、情報をまとめた冊子をもらったわけだけど。
中身の方は、また後で精査しないとねー。




