風呂と飯
男二人、困ったときの最後の手段はこれだろう。
「信綱、風呂に入るよ」
「ギュ?」
裸の付き合いって奴だよ。
当たり前だけど、五右衛門風呂は二人で入るなんて、できない。
なので、片方が湯船につかっている間はもう片方が火の番だ。湯の温度を調整する仕事をする。お互い、火の魔法使いだからちょうどいいね。
僕が先に、一番風呂に入ってから信綱が湯に浸かる。
「湯加減はどう?」
「キュゥゥ~~」
湯加減を聞けば、蕩けるような声が返ってきた。
いい感じみたいだね。
とても気持ちよさそうだ。僕は火を止め、現状維持でやめておく。
魔法の火だから、魔力供給を止めればすぐに火が消えるのがいいね。
これが薪の火だと、火を消そうにもしばらく時間がかかるんだよ。土をかけて消化をすると、また火を付けるまでに時間がかかるし手間なんだ。
魔法って、本当に便利だ。
「んじゃ、夜食でも食うか」
風呂あがり。
火照る体を夜風にさらし、僕の部屋でインスタントラーメンを作る。
今度は「同じ釜の飯を食う」という奴だ。同じ鍋のラーメンを食った仲って言い換えるけど。
鍋に水を入れ、コンロにかけて湯を沸かす。
男二人、何も言わずに鍋をじっと見る。
湯が沸けば麺を投下し、1分間煮込んでから粉末スープを入れて、冷蔵庫から取り出した生卵を二人分トッピング。そこからさらに1分待って、コンロの火を止めた。
あとはラーメンをどんぶり――こちらで作った、木製の器――に移す。
本来なら1分半ほど茹でればいい麺は、少し柔らかめ。
そこは僕の個人的な趣味に付き合ってもらう。
あ。
そもそも、信綱の好みって知らない気がする。
こういうところ、駄目だね。全然コミュニケーションがとれていない。そんな事も知らないんだと、今更ながらに気がついた。
これがリアルの友人なら、誰がどの麺と、どのスープが好きかって、全部覚えているんだけどなぁ。某大阪発のチェーン店とかで一緒に頼まないと、どうにも知る機会に恵まれないというか。
……言い訳だね。知ろうとしていなかったんだから。
ラーメンを食べるときも無言のまま。
麺をすすり、卵を食べ、スープを飲み干す。僕は塩分とか、全然気にしてないよ。
「ごちそうさま」
「グギャッ、グゲゲ」
二人そろって手を合わせ、ごちそうさまをする。
「洗い物は僕が片付けておくから。今日はもう、おやすみなさいだよ」
「グギャギャ」
僕が戻ってよしと言うと、信綱は片手をあげて自分の家に帰っていった。
細かい事を言うと、上位者である僕が片付けをするのはNGなんだろうけどね。身内なんだし、そんな事は気にする事じゃないんだよ。だから信綱も気にせずにどんぶりを残して帰って行った。
突発的にこんな事をしてみたけど、それがどこまで意味があるかは考えない。
一度に何かが解決する方法じゃなくて、ただ、小さく積み上げていく何かで善い方向に向かえばいいなって考えてる。
あんまり気がついていなかった事も分かった事だし、無意味じゃ無いよ、きっと。




