動けない
信綱のことをどうするか、誾と一緒に考えてみる。
「考えすぎではありませんか? 信綱はけして弱くはありません。必ず己の力で立ち上がるでしょう。
今は見守るのみ、それだけでいいと思われますが」
「自分がキツかった時に手を貸してもらったからね。今度は自分の番って考えがあるのかも」
誾は何もしなくていい、そのままでいいと考えているけど、僕にはそれがもどかしい。
何か自分に出来る事があるかもしれない、そう考えるのは傲慢なのだろうか?
「出来る事が無いとは言いませんが、難しい、と言うのは間違いないかと思います。
残念ながら、私には何一つ思いつくことが無いのです。
長様。何も考えが思い浮かばないのであれば、時には座して待つことも肝要かと愚考する次第です」
誾の言い分は正しい。
本当は何もできないよと言いたいのを、僕のメンツを守るために、ただ難しいと言っているだけだっていうのがよく分かる。
それに、だ。
僕は何で自分が動きにくいのかをちゃんとわかっているんだ。
今回の問題の根っこは、世代交代みたいなものだ。
先駆者っていうのは道を切り開くために多くの労力を使う。
後進の者は、先駆者が切り開いた道を進む分、より早く先へと進める。
信綱という魔法使いが藤孝という魔法使いを育てた。
信綱が手探りで進んだ分を、藤孝はショートカットして先に進めた。
藤孝が信綱を超えるのは当たり前なのだ。
言い方は悪いけど、信綱は若い世代が座る椅子を温める役を背負っていたわけだ。もしも信綱が藤孝の師匠でなければ、藤孝という才能は埋もれていたかもしれない。
古参の者がいつまでも同じ場所にい続けるのは害悪でしかない。
たまたま信綱の後輩が一番早く育っていただけで、誾や蔵人ら他のメンツもいずれは同じように席を後退することになるだろう。
僕が何も言えないのは、僕には後継者がいないことがその理由だ。
今の僕に世代交代など起こりようがないんだ。
そんな僕は、信綱にいったい何を言えるというのか。
思えば、僕はそういう意味では独りぼっちだ。
日本では結婚しておらず、子供がいない。
オーヴァーランダーのプレイヤーとしての積み重ねは、他の誰にも引き継げない。
僕の財産を、積み重ねを引き継ぐ者は誰もいない。
僕が死んだら“それまで”なのだ。
僕は信綱たちを家族だと思っている。
だけど、僕は長で信綱らはサーヴァントだ。心の繋がりはあるけど、何かを残せるわけじゃない。僕が死んだらそこで終わりでしかない。
現実から目をそらす気は無い。
何も残せない奴が、ありもしない希望に縋るなどみっともなくてできる訳がない。
僕にだって、ちっぽけでもプライドがあるのだ。
……そのちっぽけなプライドのせいで動けないとも言うけどね。
一瞬、信綱を日本に連れて行くという選択肢が自分の頭の中をよぎった。
さすがにそれは無いだろう。
たぶんも何も、何の解決にもならない。
信綱では、僕の遺産相続人にはなれないし。
それ以前に、ゴブリンの寿命は僕よりも短いから、先立つ信綱を僕が見送るのは間違いないんだよ。
でなければ僕が先立ち、信綱らはこの世界のデータごと消えてしまうとか、だろうね。
たまに考えるけど、オーヴァーランダーって結局、何なんだろう。
神様的な何かが作ったゲーム世界?
それとも本当に異世界?
答えはきっと、どこにも無い。




