魔法使いラッシュ
毎回毎回、僕らが迷宮から戻ってきて、他の連中も仕事を終えてから採取なんかをやっている。
森の方へ木材を採りに行ったり、迷宮にレンガを回収しに行ったり。他にも石や綿花などを求めてダンジョンの危険な地へと足を踏み入れる。
信綱はその仕事から外された数少ない例外だが、その特別扱いを納得できるかは本人次第だ。
トラウマで、ダンジョン内でロクに動けないというのは、簡単に克服できることでもないけどね。
僕らがステージ1の『ゴブリンの森』から戻ってくると、信綱は喜んで立ち上がろうとしたが、途中で何かに気が付いたように動きを止め、仕事に戻った。
その時の信綱は戦利品の金属装備をインゴットに変える作業をしていて、炉の中に魔法を使っている所だった。
信綱は僕らの中でも数少ない魔法使いなわけで、ダンジョンに挑めなくなったとはいえゴブリンたちにしてみれば、そこそこ重要な立場という認識を無くすほどでもない。仲間たちの信綱の扱いは、あまり変わらない。
だから「特別扱いされる価値が全て失われたわけじゃない」が、本人にとってはそれだけで納得しきれないみたいだね。その感情はかなり複雑だ。
最初の方は気にしなかった連中も、信綱がそうやって気にしていればそれに引きずられていく事になる。
信綱本人がそう望んでいるのなら、と、信綱を軽んじることになりかねない。
今すぐそうなるわけじゃないけど、その傾向がゴブリンの若い連中に見られるようになりつつあった。
そこで、事件と言うか変化が起きることになる。
僕をはじめ魔法を使えない連中だって、魔法使いになりたいと、ちゃんと練習をしていたりする。
そしてその苦労がようやく報われた。
「できた……」
僕の手には一本の棒。
その棒の先から、青い火が出ていた。
棒が燃えて火が付いているわけではない。棒の先端にライターの様な火が付いているのだ。
それはもちろん、魔法の火だ。
僕はとうとう魔法使いになったんだ。
「できた! できた! できた!! よっしゃあっ!!」
僕は思わずこぶしを握り締め、火のついた棒などお構いなしに腕を天に振り上げる。
いや、感情が爆発した時点で火は消えていたんだけどね。細かい事など何も考えずに大声を上げ、喜びを口にしていた。
「長様!? いったい何が?」
僕の大声に慌てた誾が部屋に入ってきたけど、僕は誾を抱きしめるとその場でくるくる回るなど、とにかくハイテンションで騒いでいた、らしい。
その時のことはよく覚えていないけど、あとでそんな話を聞いた。
僕は誾に魔法が使えるようになった事を話し、誾も僕を祝う側になった。ホームの中は大騒ぎである。僕が魔法を使って見せれば何があったかは簡単に分かる。話は一気に広まった。
他の連中も僕を祝うんだけど、そんな中で、刀の連中の1匹が手を挙げ、一つの申告をした。
曰く。
自分も魔法使いになった、と。




