荷運び猪
「ちゃんと叱っていますか? ただ餌を与えているだけでは、餌を持ってくる奴隷と思われますよ。
犬だけではなく、他の動物も序列を作るんです。どの動物も人の顔を覚えていう事を聞く、聞かないという判断をするんですよ」
ネットの質問箱で、猪関連でだれか相談できないかと調べてみると、とあるペットショップの店員さんが相談に乗ってくれた。
よくよく考えてみると、餌をあげたりブラッシングしたりと、面倒を見るというか世話をするだけで、しつけはほとんどしていないことを思い出した。
そっか。適度に叱らないとダメなのか。
人間の子供も、ただ甘やかすだけではクソガキ様になっちゃうからね。悪い事をしたときはしっかり叱らないとダメなんだ。
ぬるい、甘い大人は害悪だって事だね。
僕は貰った回答の中からベストアンサーを選び、役立ちそうな意見をくれた人全員に感謝のコメントを書き込むと、いつものようにアタックを開始した。
アタック64回目。
信綱を外して迷宮に潜り、再び中ボス戦。
今度は6人パーティでの挑戦だったからか、難易度はぐっと低くなっていた。敵の数が半減し、鎧と兜を装備していない。
楽勝だ。
たとえ構造が変わっても、次のフロアへの階段は自分たちが入ってきた所との位置関係が前回と割と似通っている。
そんな前情報があったから前回のマップを参考に歩くと、迷宮に入ってから2時間で中ボス戦をクリアし、僕らは次のフロアに歩を進めた。
そして初めて足を踏み入れたフロア2は、フロア1とほぼ同じ迷宮であった。
ただし、出てくるモンスターが最初からスケルトンばかり。しかも武器が剣だけではなく槍やメイスを使っているため、攻撃のパターンが複雑だ。
弓使いはいないのかなと思ったけど、弓はボロくなると弦が切れて使えないから、もっと何度も挑んで、使う武器が綺麗なものにグレードアップしたら混じってくると予想している。
ゴブリンたちも何度も挑んでいるうちに進歩していったんだ。スケルトンもパワーアップすることは間違いないと思う。
適当に何度も戦う事で手に入った戦利品を、帰り道で回収していく。
金属装備って行きで持ち帰るには重いからね。重量無視のアイテムボックスとか、本当に欲しいよ。あるかどうかは知らないけど。
ホームに帰ると、戦利品を信綱たち留守番組に預けて猪の様子を見る。
荷運びの訓練は上手くいっていないので、厳しい指導というのを実践することにした。
まずは鉄拳制裁である。
荷運びの訓練で付ける道具を落とした後に、ハンマーで頭を一発叩くことにした。ついでに餌の量を減らす。
猪の頭蓋骨は固いので、拳で叩くとこっちの手が痛いってだけで終わりかねないんだよね。
これが人間の子供であれば言葉で指導することもできるけど、言葉の通じない動物相手なので、痛みと空腹でやってはいけない事を分からせるのが目的だ。
ただ、意味があるか無いかは横に置き、言葉による指導はした方が良いとの事なので、ゴブリンから「ああしろ」「こうしろ」といった指示はさせる。
言葉の意味は理解できずとも、これを繰り返せば条件反射的に言う事を聞くようになるかもしれない。
――この訓練を繰り返すと、徐々に言う事を聞く猪が出てくる。
やっぱり、猪がこっちが何をしてほしいか分かっていなかったのも原因だったようだ。
この方法で訓練をはじめ数週間後、猪は荷運び役としてダンジョンに連れて行かれるようになるのであった。




