犬が欲しいね
「プギィィーーッ!!」
「あー。また失敗だね」
僕はゴブリンによる猪の物資運搬訓練を眺めていた。
ゴブリンは猪の腹から背中にかけて縄で縛り、その縄を絡ませることで猪の体の左右に荷物を括りつけていた。
しかし、猪は背中に荷物が載ると暴れだし、体を倒し、自分の背中を地面で擦って荷物を取り外していた。とても器用だ。
括りつけた荷物は左右合わせて6㎏ぐらい。1.5リットル入りのペットボトル4本なのでそんなもんだ。
そこまで重くは無いと思うんだけど、それでも猪にとっては嫌なものなんだろうね。あれだけ嫌がっているわけだし。
それをさせようとしたゴブリンは肩を落とし、大きくため息をつく。
僕の前で成果を出せなかったんだからしょうがないよね。御前試合的な、そんな場だった訳だし。
「ドンマイ。
こうなったら、簡単に外れないベルトでも作って、体を倒せなくしちゃおうか。簡単に外せないようにして、強制的に荷物に慣れさせるのが良いと思うんだよね」
「ギュッ!」
僕は指示を通訳をはさみ出しておく。
何も言わないっていうのもかわいそうだし。何かしら指示をしておけば、失敗しても指示を出した僕のせいにできるからね。
責任者は、責任を取るのがお仕事です。
ま、手を抜いていればそれはそれで叱るけどさ。この分ならそれを心配する必要はないと思うよ。
あとは無軌道に走り逃げ回る、猪の捕獲でも手伝おうかな。
夜。
今日1日の間にあったことを日誌にまとめていると、誾が報告書を持ってやってきた。
「家畜化の方は、上手くいかぬようですね」
「そうだね。ノウハウが無い事を始めたんだし、そこはしょうがないと思うけど」
「ええ。家畜を飼うのに、犬がいないという問題がここまで影響するとは思いませんでした」
「犬……? ああ、牧羊犬みたいな犬がいると便利でいいよね」
ふと思い出したのは、羊の群を制御する牧羊犬の姿。
某、謎解き冒険バラエティーで見た事があったんだ。言っていることが分かるのか、それとも他の何かでコントロールしているのか。犬が吠えるだけで羊が行き先を変えたシーンがあったんだよね。あれは見事だった。
確かに、犬がいれば家畜仲間の猪でも羊のように制御できるようになるかもしれない。
「でも、森の中で犬と言うか、狼は見かけてないんだよね」
「はい。狼も家畜化すれば犬になります。ですが、今は無い物ねだりですね。
コボルトでも出てくれば、それを家畜化することもできるのですが」
「それは無理じゃないか?」
「冗談です」
犬が欲しいね、と僕が言えば、誾はコボルトで代用しようと冗談を言う。
ただし目はマジだったので、本当にコボルトが発見されたら家畜化を考えそうで怖かった。コボルトさん逃げて。超逃げて。
実際問題として、物資運搬補助としてコボルトを採用するのはあんまり有効じゃないと思う。
身体能力が人間やゴブリンと比べてどれほど上かは知らないけど、ファンタジー系ラノベでは雑魚モンスターのイメージがあるし、人型になったらそこまで力強いって事もないだろうし。普通の犬より弱く、役立たずになりそうな、ゴブリンでもいいんじゃないかって事になってしまう気がするんだけど。
弱くなれば猪が言う事を聞くとは思えない。足だって遅くなるだろうし、猪に振り回されるんじゃない?
結局、無駄な気がする。
家畜の方は、当分は現状維持かな。




