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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
初心者オーヴァーランダー
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猪の牙回収

 そう言えば程度に思い出したけど、オーヴァーランダーって経験値的な物があるみたいなんだよね。

 この辺りはゲームらしいって言うか、まぁ、まんまゲームなんだけどね?

 「苦難を乗り越えると強くなる」って話なんだ。


 要は、やる事の難易度が高い方が成長しやすいシステムなんだ。

 レベル差ボーナスって言うと分かりやすいかな。レベル10のキャラがレベル1の敵を倒しても経験値にならなくなるっていうシステム。

 逆にレベル10の時にレベル20の敵を倒すと、とっても多くの経験値が入るんだよね。

 スキルごとに設定されている熟練度を見ても、より難しい事に挑戦しろって言わんばかりのシステムなんだ。


 そうなると、投石でスキルが手に入らないのはそれが“僕にとって”簡単な事で、スコップで戦うのは僕にとってハードルの高い行為だったっと言う事。

 間違ってないよね。僕は近接戦闘が好きじゃないし、遠距離戦闘に比べたら近接戦闘のリスクが高いのは間違いないんだよ。



 危険を避けるためにスキルが欲しい。

 それなのにスキルが欲しければ危険な事をしろっていうのは矛盾しているよね。


 ゲームらしく死に戻りができれば怪我をするリスクとかそんな事を気にせず突っ込むんだけど。

 一個だけの命を粗末にはしたくないんだよね。

 しょうがないから、時間がかかってもチマチマ・コツコツ進むしかないかな。






 そんな訳でまたダンジョン内をウロウロしているんだけど、ようやく獣の通り道らしき場所を見つけたよ。

 猪が通った後だと思うけど、木の下の方に何か削った後があったんだよね。それも複数の木に。


 つまり猪がなわばりを主張するためにマーキングしたって事だと思うんだ。



 そうなると、今後はここを中心に猪と戦う準備をすればいい。


 人間は猪より弱いんだよ?

 猪はゴブリンより強いんだよ?


 だったら、正面からスコップを手に戦うなんてしちゃいけない事なんだよね。



 スコップを手に戦う事はしないけど、スコップを手に罠を作る事はするんだよ。

 僕は適当な大きさの落とし穴をいくつも仕込み、いつも通り目印をつけて戦う準備をした。


 あ、ついでに柵も作るかな?

 簡単な木組みなら1時間どころか30分もかからないし、ちょっとした時間稼ぎになるかもしれないから。

 高さは膝より上ぐらいでいいかな。木と木の間に棒を通して固定用の縦軸を追加して。ビニール紐でグルグル巻いて固定すれば、一回ぐらいは突進を躊躇させる柵が完成。


 猪って猪突猛進とか言われるぐらいだけど、障害物があれば迂回したり飛び越えたりするぐらいの知恵はあるんだよね。

 だからこれぐらいの柵でも無意味って事はないはず。



 そんな事を考えながらホームに戻る途中、なんとなくスコップで張り倒してからバールでゴブリンを殴打して殺していたら、今度は≪バール術≫のスキルを手に入れていた。

 やっぱり訓練よりも実戦の方がスキルを手に入れやすいみたいだ。

 今後の参考にしようね。


 ……でも、≪投擲術≫なんかのスキルが手に入らないのは何故?

 もしかして、僕は遠距離攻撃用のスキルに適性が無いのかな?





 ちょっと微妙な気分で迎えた3日目。

 猪と出遭(であ)えればいいなと猪の縄張りを歩き回る。


 そう言えば程度の話だけど、猪ってドングリが好物だったよね。猪は鼻が鋭いっていうし、ドングリを集めればやってくるかな?



 僕はなわばりの中からドングリを拾い集め、ついでに出くわしたゴブリンを殺して回っていると、ようやく猪を見つけた。

 猪はこげ茶色の毛皮をした、正面から見るとそんなに大きくない動物だった。牙も小さいし、これでいいのか不安になる。

 顔の前に出ている牙はそこまで大きくなく、付け加えるなら親子で、3頭ほど“うりぼう(こども)”を引き連れていた。



 逃げられるのと追いかけまわされるのはどっちがマシかな?

 僕は考えるのを止めると持ち歩いていた石ころを猪に向けて投げた。


 投げた石は目当ての猪にではなく、その後ろのうりぼうに当たった。

 距離が20mもあったから、当たったところで威力は大したことが無い。ちょっとは傷を負わせられるだろうけど、致命傷には程遠い。小さなうりぼうでもそれは変わらない。


 だけど、親猪を怒らせるのにそれは十分な効果を発揮した。親猪は僕に向けて突進をはじめ、僕は全力で逃げ回る事になった。

 20mの距離があったけど、猪の足の早さは僕の倍以上。距離を詰められるまであっという間だ。意外と小回りも効くし、まっすぐ進むしか能が無いなんてデマは僕の中からすぐに消えた。


 ただ、僕も何も考え無しで走っている訳じゃない。すぐ近くに落とし穴があったから動いたんだ。

 正面から戦う気なんてさらさらない。

 落とし穴に向けて走っていたんだよ。



 僕は落とし穴をジャンプで大きく飛び越えた。

 猪はそのまま走って穴に落ちた。


 猪はそんなに大きな個体じゃなかった事もあり、深さ2mの穴に頭から突っ込んだ結果、全く身動きできなくなったようだ。暴れまわるから周囲の土が零れ落ちて、生き埋めになりそうな勢いだよ。


 僕は猪の牙が欲しいだけだけど、それを手に入れるには目の前の猪にとどめを刺さなきゃいけない。

 とどめを刺して、牙を折るまでが僕のクエストだ。


 僕は猪に近づくと、そのケツの穴にポールを挿し込む。

 落とし穴のマーカー代わりに使っていたポールは地面に突き立てるタイプで、先端が結構尖っている。ついでに長い。

 猪が暴れるからなかなか挿し込めず時間がかかったけど、一度上手く刺さればあとは簡単だ。力任せに押し込むだけである。


 3~40㎝も挿し込むと、猪がくぐもった声で叫びをあげて力強く暴れまわる。

 ただ、そのまま数分放置していると、徐々に力を失い、30分以上かけてようやく絶命した。

 死因は内臓損傷による失血死かな。適当だけど。


 僕は僕とほぼ同じ体重の猪を穴から引き上げると、その牙を折って回収した。

 ついでにお肉を回収できれば良かったんだけど、生憎、僕には解体に使えそうなリアルスキルが無い。こんな事でEPを使う気にもならないし、何より重い猪は持って帰るのが大変だ。

 僕は牙だけ回収した猪の死体をそのまま放置して、そのままホームに戻った。



 僕の後ろでは死んだ親の周りでうりぼうが鳴いていたけど、そこは気にしない事にしている。

 これを気にするなら、普段のゴブリン退治だって十分に鬼畜生(おにちくしょう)の所業だからね。


 それは、もう今更なんだ。

 後悔するほうが殺した相手への侮辱なんだよ。

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