暗躍する者
その日、有仁の件で動きがあったという事で、とある組の若頭が部下から報告を受けていた。
白のスーツを着こなす30代後半の男が、自分よりも少し年上の男から口頭の説明を受けている。二人とも暴力の臭いがしない、エリートビジネスマンであると言えばだれもが簡単に信じそうな外見をしている。
彼らは指定暴力団の波田組系2次組織、白船組の者たちだ。
今は有仁を買収すべく、行動を起こしている。
「では、無事に顔合わせは済んだのですね」
「いえ。野郎も戦慣れしているせいか、こちらの面々に気が付いたようです。目に見えてってほどではありませんが、こちらを警戒していたようです」
「ですが、何もしかけなかったのでしょう?」
「もちろんです。仲間に引き込むためにケンカを売るなど、させてはいません」
「ならば問題ないでしょう。計画はそのまま進めなさい。違和感を感じただけで話は終わり。勘違いで済ませます。その後の出会いも自然なものなら、違和感など洗い流せますよ」
白船組はインテリヤクザと呼ばれる種類の連中で、合法スレスレの危険な行為に手を染めることはあっても、けして法を犯さない種類の暴力団である。
今ではオーヴァーランダーがいい資金源になっているため物理的な古い種類のヤクザがのし上がる機会が増えているが、それでも波田組内ではそこそこ以上のアガリを出せる重鎮である。
有仁の件は若頭、つまりは次期組長候補筆頭が直接管理する案件ではない。
組長がさらにその親、波田組の組長から預かった案件とはいえ、若頭は大まかな指示を出して報告を受け取るだけである。細かい事は信頼できる部下任せだ。
全国規模の暴力団、その2次組織となると一つの県全域を支配するレベルである。個人規模の問題であればさらにその下の3次組織に任せる案件なのだ。
若頭は、ふと思い出したように部下に質問をする。
「そういえば、冒険者ギルドの方はどうなっていますか?」
「何人かから情報は得ていますが、肝心な部分は何とも。こちらから情報を流しているので、そのうち接触があるはずです」
「そうですか。そちらは新田の件以上に慎重に動きなさい」
「分かりました」
白船組は有仁が冒険者ギルドとかかわりを持っているという事を当然のように知っている。
そうなると有仁の勧誘には冒険者ギルドが干渉してくる恐れがあり、強引な手段を取り難いと感じていた。
敵は少なく味方は多く。
どんな分野にも言える、対人戦の基本である。
白船組は無駄に敵を増やす真似をする気が無かった。
ではどうするのかというと、冒険者ギルドの職員に接触し、当たり障りのない情報を金で買うのである。「敵を知り己を知れば」という訳だ。
逆にこちらの情報を流すことで互いの妥協点を見つけるという事もすれば、話し合いと金銭のやり取りでスムーズに交渉できるという思惑もある。
買収をする段階でケンカを売っていると考えるのは彼らにとって間違いなのだ。アクションを起こしたのはリアクションを期待しているだけで、話のとっかかりを作っているだけというのが彼らの主張である。
付け加えるなら、彼らは外部の人間を間に挟むことで彼ら自身は法を犯していないというスタンスを取っている。
犯罪者が出るとしても、それは彼らと直接かかわりの無い第三者なのである。
ちなみに、彼らは有仁の件を最低でも半年かかるだろうが、出来れば1年程度でどうにかしたいと考えている。
人間の心理的な面がかかる話であり、そこまで急ぐ案件でもなく、無理を通して出費を増やす事も無ければ、まだオーヴァーランダーを始めて2ヶ月程度の有仁ではそう大きなアガリが見込めないという要素が絡んでの判断だ。上もその判断を支持している。
「そういえば、あの男。ここ最近は女に振られて傷心って話です。多少急いでもいいかもしれませんね」
「素晴らしい。今ならつけ込めそうですね」
ただし予定は未定であって決定ではない。
想定外の事が起きるのはよくある事である。




