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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
プロ・オーヴァーランダー
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仕組まれた出会い

 その日の気分はラーメンだった。


 大集落、ひいてはステージ初クリアという事で浮かれていた僕だけど、お祝いにラーメンを食べに行こうと思った。

 お寿司は食べたばかりだったので、なんとなく塩ラーメン煮卵トッピングが食べたくなったんだ。





 他の県に詳しいわけじゃないけど、岐阜はわりとラーメン屋が多いと思う。

 僕の家の周りには少ししかないけど、街の方の大通りには有名チェーン店や個人経営の美味しい店が立ち並ぶ。

 普通のラーメン、素材の特徴を前に押し出した各種つけ麺、辛さが決め手のベトコン、ヘルシー系ラーメン、その他いろいろ。選び甲斐があっていいよね。


 車を走らせ僕が向かったのは、肉そば命を掲げるチェーン店系ラーメン屋。大阪発の有名店でも良かったんだけど、そっちは駐車場が満杯だったから諦めた。

 そこで基本の肉そばのがっつりセット、鉄板チャーハンと餃子の付くお得な奴を頼んだ。

 ラーメンの方はスープやトッピングなどを弄れるので、塩ラーメンの煮卵トッピングに切り替える事も可能。僕はテーブルに案内されるとさっさと注文をして、スマホを弄りながら頼んだ品が届くのを待つ。



(ん?)


 ラーメンを待っていると、そこそこ空いていた店内が、俄かに慌ただしくなる。来客が続き、席が一気に埋まりだしたのだ。

 僕は何か違和感を感じ、スマホの方に目を向けたまま、周囲の気配を探ってみる。


 僕は周囲の客の気配、その意識の半分ぐらいが自分に向かっているように感じた。

 直接視線を向けられているわけではないけど、オーヴァーランダーのプレイヤーとして鍛えられた感覚がそう訴えているのだ。間違いないだろう。

 それに新しく来た客の何人かはいかにもヤクザといった強面だ。警戒しない方がおかしいだろう。



 もしかすると、この間撃退したヤクザの報復か、他の何かの前兆か?

 僕がそうやって警戒していると、何か困ったような顔の店員が僕の方に来た。


「申し訳ありません、お客様。相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 これが本命か。

 その為に席を埋めたのか。

 僕は相手の意図をそのように結論付ける。


「構いませんよ」


 なので、僕は店員に対し軽く笑いかける。


 穴倉に潜り込んで手を焼いているモグラがいるのなら、出てきたところを叩けばいい。

 そのように考えているならそのたくらみを打ち破ってやろうと服の中に仕込んだバールをいつでも使えるようにと、その感触を確かめる。





「こんにちは。うるさくしてしまったらすみませんね」

「……どうも」


 警戒している僕の前に現れたのは、僕と年の近い、20歳前後の娘さん2人だった。

 テーブルを挟み僕の正面に2人は並んで座る。


 足元を見た限り、何か仕込みのある靴は履いてなかったように思う。テーブル下で何か仕掛けてくる可能性はゼロじゃないけど、そこまで警戒しなくてもよさそうだと、目の前の相手への警戒を少し緩める。 

 その代わり、目の前の2人が僕の注意を引く役で、周囲にいる連中が僕を攻撃する役かもしれないと警戒を外に向けた。



 そのあとは特に何もなかった。

 僕の警戒はなんだったのだろうと言うほど穏やかで、目の前の2人も僕を特に意識することなく注文をして、談笑しつつラーメンを食べていた。

 僕は早くに来た分、彼女らの食事中に食べ終えたので、さっさと会計を済ませて店を出て行ったので食べ終えたあとの事は知らない。

 駐車場に向かう時も特に何も無かったので、本当にあれはただの偶然だったのか、僕の勘違いではないのかと自問する羽目になった。





 1週間後、また別の店で彼女たちと再会することになるのだが、それは僕に予測できる話ではなかった。

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