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オーヴァーランダー  作者: 猫の人
プロ・オーヴァーランダー
112/290

祝勝会

 魔法陣を潜ると、事前情報の通りみんなホームに戻ってきた。

 死んだ誾も一緒だ。

 僕は抱いて運んでいた誾の体を床に降ろす。



 死んだのは誾だけで、他には刀から2匹のけが人が出ていた。

 生き返らせるのが誾だけで済んで良かったよ。



 今回はちょっと扱いが特殊らしく、クエストクリア扱いなんだけど、すぐに日本に戻らなくていいみたいだ。

 ステータス画面の中に『ステージクリアを確定しますか?』って項目があるから、そこでYESボタンを押さなければ問題ないみたいだ。


 それよりも、という事で、僕はEP交換画面の中から『サーヴァントの蘇生』タブを選択。死亡者一覧の中に唯一ある誾千代の名前を選択する。

 消費EPは10P。本当にこれでいいのかと言いたくなるほど安い。さすが最弱ゴブリンだ。……でも、けが人を治すのに使った回復薬より安いのはどうかと思う。


 EPを消費すると、僕の目の前にあった誾の死体が光に包まれ、傷一つ無い状態へと変わった。大きく損傷していた顔も綺麗な状態になっている。

 おお、と僕が感嘆の声を上げると、誾の目がゆっくりと開いた。


 誾は目を開くと体を起こし、周囲を見渡した。


「長様。攻略は成功したのでしょうか?」

「もちろん!」

「おめでとうございます、長様」


 見慣れた小屋の内装ではなく、改装したばかりのホームに少し戸惑っていたけど、僕らが負けるはずが無いと信じていたのだろう、誾は僕らの勝利を確認する。

 僕がぐっと親指を立ててそれに答えると、誾はほっと胸をなでおろし、祝いの言葉を述べた。


 うん。

 さっきまで微妙な気分だったけどさ。

 ようやく勝ったんだって実感がわいて嬉しくなってきた。やっぱり仲間が死んだままでは中途半端で嬉しさも無いんだよね。

 誾が生き返り、ようやく勝利を祝おうって気分になってきた。





「では! 僕らの勝利を祝して! 乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」

「「「ウオォォーーッ!!」」」


 僕の音頭に合わせ、ゴブリンたちの声が、叫びがホームの広場に木霊する。



 今回は大集落攻略以外をする気が無かったので、持ち込んだ荷物は意外と少ない。

 そしてそのほとんどが祝勝会用の食料だったりする。負けたらその時は残念会用の食料になるだけだ。



 肉料理は猪肉を一気に放出したのでそちらは持ち込み少なめ。魚料理と大盛りのパスタ、フライドポテトにレトルト中華と、何気にコストを抑えたラインナップだったりする。

 ここで高級品をいきなり出すと、今後のハードルが上がっちゃうからね。なので見た目だけ豪華になるように調整してみた。


 ついでにお酒も用意してみた。

 ビールや発泡酒がほとんどで、実はそんなに量が無いんだけどね。1匹1缶ぐらいは飲めるようにと頑張ったよ。

 缶のお酒、3本で1㎏ちょい。30本用意したからそれだけで10㎏。かなり厳しいです。



 無礼講というか、そもそもそんな格式が無いというか。

 慣れない酒が入ったために大騒ぎになっている。


 アルコール耐性は訓練すれば多少マシになる。

 それを逆に言うと全然縁の無かったみんなにしてみれば劇薬のようなものだって事で、凄まじい威力を発揮したわけだね。

 信綱や誾、蔵人ですらフラフラになっている。あ。信綱が倒れた。

 若い刀連中の方が酒には強いみたいだねー。僕も安いカクテルの缶に口を付ける。一気に飲むなって言っておいたんだけどねー。よく炭酸のきついビールとか一気に飲めるね。僕にはできないよ。



「グギャッ、グギャッ」


 酔った勢いでなぜか一部のゴブリンが踊りだした。

 それを見て踊る奴が増え、場の盛り上がりは更にカオスになっていく。

 たぶん、収拾はつかないね。


 僕は巻き込まれないよう、そっと広場を離れることにした。





「長様」


 僕が広場を離れて自室に戻ると、すぐに誾が追いかけてきた。

 酔っぱらった時に走るのはあんまり良くないんだよ?


「本日は申し訳ありませんでした」


 誾は僕に、頭を深々と下げた。

 腰を90度も曲げての謝罪だ。殺されたことを気にしているらしい。


「それを言うなら、助けてくれたことに感謝しているんだけどね。僕が死んだら終わりなんだし、ファインプレーだったよ、あれは」


 当たり前だけど、僕は誾が死んだ事で、誾に怒るなどあってはならないと思っている。

 僕のミスで誾を死なせたって思っているけど、誾が死んだ事で足を引っ張られたという事実はない。責められるべきは僕だけだ。

 ただ、僕が本職の戦士とかじゃないことを考慮すると、僕の責任もそこまで大きくないと思うんだけどね? 自分に甘いかな? もっとも、ここにいる誰もが僕を責めないんだけどね。



「ですが……」


 僕が自己完結していると、誾は困ったような顔で僕を見た。

 どちらかと言うと、死んだ事に罪悪感を感じているので裁かれて楽になりたいって事なのかな? なんて言うか、区切りが欲しいのかもしれないね。


 とは言え、ここでいきなり気の聞いた罰など考えつくはずもなくて。


「じゃあ、次に顔を合わせる時までに考えておくよ」


 僕は時間稼ぎをすることにした。

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