大集落攻略 後半戦
戦いは僕らが押している、優勢だったと思う。
ただ、戦いは水物。
一瞬で流れが変わるというのは珍しくもなんともない話だったんだ。
ホブゴブリンに一瞬で距離を詰められ、遠距離戦ができなくなった。
近接戦闘ではどうしても戦士としての技量が鍵を握る。
遠距離戦ではそれよりも装備の充実度合いが第一なんだけどね。
だからこそ、僕は催涙弾なんてチート装備を用意しているんだよね。僕みたいな“戦闘の素人”が地金を晒さないように、さ。
僕たちとホブゴブリンの戦力比は6:10でホブゴブリン優勢。
装備の面で言えば、確実にこっちが上かな。鉄の穂先を持つ槍を使おうが、スコップの方が強い。武器の完成度は比べるまでもない。
「先手必勝!」
僕は近接戦闘が始まると同時に、最初の一体に突きを放つ。
目の前のホブゴブリンは難なく回避したけど、その後ろにいたホブゴブリンは回避できない。
僕のスコップは狙い違わずホブゴブリンの胸に突き刺さり、大きく吹き飛ばすことに成功する。
「〇突に死角無し!!」
僕は突き終った態勢のまま足をしっかり踏みしめると、伸ばした手の先にあるスコップを、体をひねって横薙ぎへと変化させた。
昔読んだ漫画のネタだけど、攻撃の繋ぎとしては使い勝手のいい方法だ。突きは高い威力の代わりに避けられやすいんだけど、こうすれば攻撃と攻撃の隙を小さくできて都合がいい。
ただ、この攻撃は――
「グウッ!」
「防がれたか!」
軽いんだよね。
連続攻撃としての評価は高いんだけど、腰を落ち着けての一撃じゃないからどうしても一撃に体重を乗せられず威力が無い。
僕の横薙ぎは最初の一撃を回避したホブゴブリン一号の腹を捉えるけど、相手の持つ槍で簡単に防がれた。
装備が良くても、軽い一撃では槍の木の柄を折れないんだね。残念。
ただ、まぁ。
僕は、別に一人で戦っているわけじゃないんだよね。
僕の横にいた蔵人が、そのホブゴブリンの脳天にスコップを振り下ろした。横にして立った刃の部分が頭の曲線で滑り、肩を強く打ち据えた。
こちらは体重の乗った一撃だったので、鎖骨がへし折れる音がした。
良し。
幸先の良い出だしに、僕の口元がほころぶ。
が、僕が笑っていられたのはそこまでだった。
「有仁様!」
誾が僕の腕を引っ張った。
僕は不意を打たれ、抵抗する間もなく地面に倒れた。
いつもの「長様」ではなく「有仁様」と呼ばれたことなど気が付きもせず、僕は「何をするんだ」と言おうと誾の方を見て。
顔を、黒い、何かに、食われた、誾千代を見た。
「は?」
その時、僕の思考は完全に停止した。
その黒い何かは、誾を殺すと姿を消した。
僕は何かを考えたわけではないけど、祭壇の方へと視線を動かす。
そこにはひときわ豪華な衣装を着た、大きな杖を持ったゴブリンがいた。
何と言うか、神道の神様っぽい白い衣装にゴテゴテと青い葉を付けた木の枝や何かで着飾った、いかにも偉い人といった風体のゴブリンだった。
直感で理解する。
ああ、こいつが誾を殺したんだな、と。
そもそも、殺しに来ている僕らから死者が出たところで、それは自業自得なんだけどさ。
それでもね。ムカつくのはしょうがないと思うんだ。
仲間を、家族を殺されて僕の中でプツリと何かが切れた。
「うおおぉぉぉっ!!」
とにかく叫んで、後先考えることなく全力で走りだす。
目の前にホブゴブリンが出てくれば邪魔だとぶっ飛ばし、やっぱり盾が欲しいからスコップと竹の盾を捨てて吹き飛ばしたホブゴブリンを盾にして、僕は突き進む。
途中でまた何か黒いのが飛んできたけど、ホブゴブリンシールド(生)でそれを防いで突き進む。
誾を殺した白ゴブのところにたどり着くけど、そのまま足を止めずにぶちかましを敢行。「新田少尉、突貫します!」だ。
続けてホブゴブリン・ハンマー(新鮮)で白ゴブを殴る。
このハンマーは重いので振り被るのが大変だけど、目の前の白ゴブを殺すのにちょうどいい塩梅だ。とりあえず10発殴ったらハンマーが壊れてしまったので、倒れている白ゴブの腹を全力で踏み抜き、とどめを刺す。
白ゴブを殺し、無手になった僕は予備というか護身用に持っていたバールを装備して周囲を見渡す。
荒い息を吐きながらも警戒をする。
するとなぜか僕に怯えたホブゴブリンが及び腰でこっちを見ていて、僕が視線を向けると一目散に逃げだした。
ゴブリンが、ではない。ホブゴブリンが、だ。
たぶん、白ゴブを殺したから、ボスが死んだ、殺されたと逃げ出したんだろうね。
敵がいなくなって、僕はようやく落ち着いた。
目の前で犠牲者を出してしまったけど、何とかステージクリアだ。
早く戻って誾を生き返らせないと。
僕はクリアの喜びよりも、生き返らせられるとはいえ誾を死なせたことに落ち込んでしまった。




