表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/41

第34話 異世界へ転生したことにする・破 1


 第二王女リルプラムは政界要人と勇士団の間をとり持つふりをしながら、実質では宮廷の主導をはじめる。


「……以上の配置で市街地に広がる過激派の『幻想主義者』に対処し、残りの勇士団のかたは騎士団の武装解除を進めてください。この連名の書状があれば、兄上たちは無理をしないと思いますが……」


 書状はギブファットへ預けられた。


平助へいすけはそうもいかねえかもな。わかった。なんとかしてくる……どうした水希みずき?」


恵太けいたくん、いつから小梅こうめさんとそんなに仲良くなったの?」


 灰色髪の少女はふてくされた顔に、不安や悲しみを混ぜている。


「そんなこと言っている場合じゃねえだろ!? この決勝試合で推薦入学が決まるんだから……頼むぜ水希!」


 ギブファットは強引にワラレアの腕を引き、ウェイストリームほかの勇士たちも続くが、ウィンシーはリルプラム王女に止められた。


「バンブートゥも私といっしょに来てください。兄上と姉上の主だった支持派閥にも融通はきかせましたが、念のため……」



 地上の迷宮入口に取り残されていた騎馬部隊の隊長たちも、ウェイストリームが先頭に立って第二王女と大物貴族の連名書状を見せると、部下たちをさがらせた。


「そのように処分を保障してくださるのであれば……しかしフラットエイドどのは王子たちを連れて『王家の神殿』で儀式を強行するつもりのようです。しかも『神の楽園』を現出させる祈りとか……」


「それはそれで実現したらすばらしいな」


 ウェイストリームは笑顔でうなずくが、ギブファットはその後頭部をひっぱたく。


「人類を滅ぼすバケモノを掘り出しかねないって話は忘れたのかよ!?」


「いやすまない恵太。あくまで可能性としての話で……」


「そんな能天気だから首位を奪われるんだマヌケ! お前はその無駄にモテる顔と肩書きで補給所の騎士団を根こそぎふんじばってこい!」


「待ってくれ! 平助の説得であれば、僕にこそ任せて……」


「その甘っちょろさが足手まといだっての! てめーは平助の命がこの帝都より大事とかほざきかねないアホだろうが!? 俺は自分の命どころか指一本とも引き換えにしたくねーし、王子や王女どもがくたばったら出世もクソもねーだろが!?」


「え……えーと、君は『恵太』なのか? まるで以前の……いや、それほどの意気込みということ……だよな?」


「ちっ、このぶんじゃ補給所の連中と話をつけるまでは手を貸さねえと、ヘマやらかしそうだな……早く来い!」


 とまどうウェイストリームの腕へ、少女の指がそっとそえられる。


「ごめんなさい道流みちるくん! 恵太くんたら、こういう時に頼れるのは道流くんだけだってわかっているくせに、意地をはって素直に頼めないんだから……っんもう!」


「き、君は極めて水希さんのままなのだな」



 巨大縦穴の底では、ドリルを稼動する騒音が響き続けていた。

 螺旋階段で地上を見張っていた兵士たちが掘削現場へ駆け下りてくると、その騒音も急速に低まる。


「勇士団が来ています! 地上の騎馬隊とも争った様子がなく……え?」


 伝令は奇妙な光景を目撃して止まる。

 掘削地点から走る地割れが広がり、噴き出す光の波が、次々と複雑に形状を変えていた。

 それは生物のような、器具のような、建物のような形に伸縮し、見たこともない精密な形状も多い。

 フェアパイン王子とカメリア王女も『王家の神殿』へかかる吊橋から見下ろし、奇怪な幻灯の立体像に魅入られる。


「今のは『電信柱』……『幻想奇書』にも書かれている、電子を流通させる石碑だ!?」


「登場人物の多くが衝突する宿命にあり、注釈によれば電気と磁力の関係も示唆されていましたが……なぜそれが『神の啓示』に!?」


 フラットエイドは呆然と光を見上げながら、かすかに「やけにくわしいですね?」とつぶやく。


「あれは『液体燃料車』の行軍だ!? 四角い巨大塔の林立も……」


「それでしたら啓示の研究書にも……しかし脳内へ直接に感受する『神の楽園』が、なぜ目に見えているのです!? これほど巨大かつ緻密な魔法を現出しうる源は…………聖神様が、我々の祈りに応えてくださったのでしょうか?」


 王子と王女は驚嘆し続けるが、フラットエイドは不意に眉をひそめ、発生源の地割れへ目を配る。


「いえ、この光もまた、新しい階層の特徴というだけかもしれません……あるいはローシーの危惧していた『新階層の魔物』が持つ『未知の性質』である可能性も……?」


 かつて首位部隊の副官だった頭脳は、本能的に冷徹な分析をはじめる。



 光の造形はだんだんと大きくなっていたが、ゆがみもひどくなり、やがて周囲で土砂の運搬をしていた怪物馬へからみつく。

 巨体の半分が光へ飲まれると、脚から胴が光と共にゆがんで流れ出し、液状の光と共に別の騎馬へ飛びかかった。

 二匹の巨体は粘土のように混ざり合い、それぞれの脚がめちゃくちゃな位置から飛び出てもなお動き続け、膨張さえしている。


「た、退避ー!」


 それらの騎馬を制御していた騎士たちは台車から飛び降りて駆け逃げ、その背後には怪物馬の首だけが二本、ぐねぐねとのびて追った。


「お逃げください! カメリア様! フェアパイン様!」


 神殿にいた杖術使いたちは王子たちを抱え、杖術の噴射で空輸する。


「あれは……なんなのですか!?」


 三匹目の怪物馬もとりこまれて光にかき混ぜられ、いびつに変形しながら各部位は勝手に動きまわる。

 たてがみも、目や歯や舌さえ、いたる所から好き勝手に生えては流動し、その巨大肉塊はもはや、生物と呼ぶこともはばかられる冒涜的な醜怪だった。


「なぜ楽園を前に、あのようにおぞましいものが……まるで悪魔や邪神だ!」


 まだ制御されていた五頭の騎馬も、足止めに隊列を作る。

 フラットエイドも自らの自転車部隊と共に防衛線へ加わった。


「おそらくは竜と同じ『合成』の性質……しかし別の個体と、後天的に、目に見える速さで合わさるなど!?」


 連射式の弓矢がばらまかれ、多くの答と謎がもたらされる。

 光る部分へ撃ちこむと、多くは通り抜けたが、中には弾道や速度が急に落ちる矢もあった。

 とりこまれた騎馬へ当たれば突き立って血も流れたが、槍のように大きな弩砲の矢が頭部を貫通しても、首は動き続ける。

 弩砲を撃ち返されたような轟音がふたつ重なり、隊列を組んでいた騎馬の一匹は首が破裂し、もう一匹は頭が爆散していた。

 未知の怪物が射出した砲弾のひとつは蹄で、騎馬の脚が関節をいくつも連ねて伸び、血にまみれながら、ずるずると引き返そうとしている。

 もう一本の砲弾は伸びすぎた首で、頭部と衝突した頭部は半分ほど砕け、それでもあごと舌は動き続けていた。


「神のごとき脅威……だが存在そのものが、完全に狂っている! 第六階層は『狂神』の迷宮か!?」



 王子と王女は螺旋階段を駆け上がりながら臣下を心配していたが、フラットエイドは追い払うように急かす。


「私にかまわず、緊急用の崩落装置を使ってください! この怪物はここで封じなければ、どこまで吸収と巨大化をくりかえすか……帝都が滅びかねません!」


 かつて帝都最強だった『甲術』を車体へ広げ、その陰へ隠れる。

 しかし予想外の角度……伸びきって半壊した馬首からも怪物馬の脚が生え、フラットエイドを蹴り飛ばした。

 何度も転がりながら、すぐに起き上がった元上級勇士の顔は、周囲が驚くほど落ち着いている。


「騎馬隊も続いて後退してくれ……騎馬は吸収されてしまう。まだしも私のほうが足止めに向くようだ」


 部下の弓兵部隊にも後退の指示を出し、独りで踏み出す。


「これは妄執にかられた私への神罰らしい……不幸中の幸いは、この『狂神』の対策を考えられそうな我が友が、地上に残っていることか……すまないが、頼むぞローシー!」



 そのころ捕虜となっていたローシーは、王宮の一室でリルプラム王女に押し倒され、なにも考えられなくなっていた。


「どうか、ローシーさんにお願いしたいのです」


 腕を縛っていた縄をほどかれ、ついていた跡をそっとなぜられる。


「あうあっ、な、なにを……!? バンブートゥ様も見ておられます!」


 しかも第二王子はひそかにガッツポーズをとっていた。

 そしてなぜかその隣ではウィンシーがそれを見てコクコクうなずいている。


「い、いえ、姉上がお頼みしているのは、政治腐敗を一掃する協力で……」


 リルプラム王女は視線で弟をたしなめる。


「そのようにきれいなものではありません。平民の権益を広げるということは、貴族の権益を削るということ。派閥のバランスをとるために見逃した汚職構造も小さくありません。その代わりに『削りやすい』というだけで泣いてもらうかたも少なくないのです」


「しかし姉上が平民階級の活用を広げながら、部分的にも改革を進めるのでしたら、いずれは国家の繁栄にも結びついて……」


「それでもなお、そこへいたるまでの膨大な困難は覚悟しなければなりません。そして、その傍らへ共に立っていただけるかたを必要としております」


 王女の静かな気迫に、ローシーは顔を赤らめて見とれる。


「し、しかし私がリルプラム様への支持を表明するわけには……私はカメリア様に『蒼天』へ推薦していただいた恩があり……」


 王女が不意にゆがんだ笑みを浮かべ、ローシーの背筋がぞくりとする。

 見たこともない表情のはずが、嫌というほど見慣れている気もする。


「きれいなものではないといったじゃろう? お願いしてもだめなら、命令のほうが法見のりみちゃんの好みじゃったかのう?」


「な、なぜ、サラダウォーク様の口調などを真似て……?」


 論理的な帰結よりも先に、肉体が真実を察して汗を噴き出していた。


「幼いころは大叔母上の目を盗んで、羽ぼうきでくすぐり合いなどもしておったのう? 弱点もよくおぼえておったから、つい悪用してしまったが……わしの正体をよく知る者が勇士団へ入ってしまった以上は、特に嫌われておく必要があったのじゃ」


「な、なぜリルプラム様……が……?」


 とまどう褐色の両手を白い両手が包むこむ。


「ローシーさんでしたら、もうお察しではありませんか?」


「制度改革のために、平民階級の研究を……?」


 瞳の大きな童顔は痛ましげにほほえむ。


「裏の裏は表です……私が王女として国を憂う気持ちも、友人としてローシーさんに頼る気持ちも、嘘偽りではないのです」


「し、しかし、いくらなんでも……ひゃうっ!?」


 薄化粧の小さなくちびるが邪悪にゆがみ、銀髪をはいずる。


「ひひ。裏の裏は表じゃ……わしが改革を望むのは、屈折した享楽主義者だからでのう? そしてライバルの法見ちゃんが相手では、つい悪ふざけをやり過ぎたくなるのも本心じゃ。急いで承諾せんでもいいぞ? 長く楽しめるからのう……ひひひひっ!」


「ひいいい……」



 ユイトエルブ大陸は魔物であふれ、魔力に優れた人材が頼りの対抗手段だった。

 大陸を統一した聖神帝国は王立傭兵部隊『勇士団』を設立する。

『狂風勇士隊』の四人は帝都最強の戦闘部隊と畏怖されながら、魔物以上に忌み嫌われていた。

 だが未曾有の危機を目前に、かつての最強である『蒼天勇士隊』とついに手を組む!


「りるぷらむ様にしたがいましゅ……りるぷらむ様のご命令どおりにぃ……」


 別件の問題は発生しているが……世界を救うため、駆けよ勇士隊!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ