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第32話 異世界へ転生したことにする・序 2


 城壁上の弓兵部隊すべてが、弩砲の動作不良で混乱していた。


「むっ、そんなところに小石がはさまっていたか……誰のしわざだ!?」


 そう言いながら護衛隊長トゥルクレインは別の部分へ釘を仕込む。


「誤作動の危険がありますので、発射は安全を確認できるまで待ってください!」


 そう言いながら回復しそうな別の弩砲へ駆ける。

 さらにあちこちで、通常の矢の補給まで矢箱ごと消える騒ぎが起きていた。


「こちらは私たちで探します!」


 そう言った陰でトゥルクレインの部下たちは矢箱の山を城内へ隠している。



 リルベルは城壁上の悪辣でいじましい工作活動を察し、呆れ気味に苦笑する。


「どなたかは知らんが、ここでも協力をいただけたようじゃのう?」


「ほらね! まずは信じないと! 私たちはひとりじゃないって! 声をあげれば、応えてくれる人は必ずいるの!」


 下級神官の世迷い言にリルベルもいちおうはうなずくしかない。


「まさかここまで早く進めるとはのう? しかし問題は、門をこじ開けるまでの時間かせぎじゃが……」


 王宮と帝都市街を迷宮の魔物たちから守る重厚な大扉は、ワラレアがノックをすると開きはじめた。


「え……え?」


「ほらね!」



 中から出迎えた一団は地上にいた勇士たちだけではなく、貴族や神官や平民も多く混じっていた。

 市街地まで続く広い城内通路も開け放たれていたが、どこまでも混雑でひしめいている。


「よくがんばりました露葉つゆはちゃん。必ずや聖神様の祝福がありますよ」


 孤児院の上級神官クリアレイクは負傷しているデューリーフを引き取って赤毛をなでながら迷信をふきこむ。

 最後尾のウィンシーは騎馬を足蹴にした反動で城門へ飛びこみ、大扉を一気に素手で閉じきる。


「いやいや、開閉装置があるんじゃが……」


 通路の中央にある城内への大扉は衛兵たちが侵入を阻止して押し合っていたが、積極的な攻撃もしていない。

 詰め寄る群衆の中でも、小柄な者の多くはなぜか顔を隠していた。


「この中にリルプラム様もいるのです! どうか武器は向けないでください!」


 という叫びを上げている数人の女性は、第二王女つきの護衛である。


「あう。なるほど……第二王女様は民衆にまぎれることで、かばってくれとるようじゃのう?」


 民衆にまぎれるリルベルは気まずそうにつぶやき、その護衛のひとりから騒ぎにまぎれてメモを渡される。


「帝都脱出ではなく、このまま本当に王宮を制圧しないと危険? いったい事態はどこまで……?」


 市街まで延々と広がる群集がすでに予想外だった。

 ギブファットたちが加わると門番もすぐに制圧され、城内への突入がはじまる。


「城を封鎖するんじゃ! 誰も傷つけぬように! それがウェイストリームどのと第二王女様の共通方針じゃ!」


 地下にいた勇士たちは制圧すべき城内目標をすでに指示されており、増援が入った場合の配分も決められていた。

 リルベルはとっさにいくつかの指示を付け足す。


「城壁の上はわしが行く! 流れ弾で危険じゃから、ほかの者は近づかんように!」



 城壁の上へ出ると、すでに弓兵隊のほとんどは縛られていた。


「手荒な真似をしてもうしわけありません。リルプラム様のご意向でして……」


 などと勝手に理由をでっちあげてトゥルクレインが次々と残りの兵士を鉄鞭で捕らえ、部下へ投げ渡している。

 リルベルはこそこそと近づき、物陰から手招きした。


「あまり私の名前を便利に使わないでください」


「ならば我々に不便な失踪をくりかえさないでください。それはともかく、まずはこれです」


 トゥルクレインはいそいそとメモを渡す。


「ぎゃっ」


「ええ。そこにある都市はすべて、騒ぎが飛び火しております。さらにこれ……」


 トゥルクレインがメモにしては大きい紙を広げる。笑いをこらえながら。


「ああうあふああっ!?」


「ええ。一覧の要人はすべて、道流みちるくんの支持にまわっております。まさかそこまで増えるとは思いませんよねー。なんか意外と貴族区画でも『幻想奇書』は出回っていたらしくて。鳩亜はとあちゃんが大量購入しては友人たちへばらまいて、実質で売人の役割をしていたようですねー」


「し、しかし、これほどの勢いで膨らんでしまっては……」


「国をまっぷたつの内戦ですかねー」


 護衛のひとりが駆けつけてくる。


「さきほど法見のりみちゃんが捕縛され、城内の主だった抵抗は制圧されました」


「はやっ!?」リルベルとトゥルクレインの声がそろう。


「詳しい状況はわかりませんが、素通しした相手側の指揮官が『決して愛称で呼ばれたい一心ではなく』と弁明しているそうです」


 リルベルはツッコミを入れる気力もなく、二枚のメモを見比べる。


「ああああ。まさか騎士団側もここまでギリギリだったなんて……平助へいすけさんが好き勝手できた原因もこれでしたか……たしかにこの状況では、いったん王宮を制圧してまとめたほうがまだしも……?」


「でもここまで勢いづくと減刑交渉どころか、国家転覆まで考える人も多そうですねー」


「しかしウェイストリーム様の主張は今の政情を無視しすぎています。かといって今から素直に投降しても、ここまでされた反動で過酷な粛清が……どうにか……収束の道筋をつけなければ……どうにか……」


「とりあえず、便乗して略奪破壊したいだけのクズはどんな騒ぎでもつきものということで、なるべく自分の居住区画の警備へ向かうように、部下が誘導しています」


「助かります。こちらも城内突入は『中級以上の勇士』と『貴族』を優先して配置しましたが……」


「あー。『傷つけずに制圧できる実力者』と『城内を知る案内人』というたてまえで、実は『貴族をなるべく多め』ですか。なにかと関わりのある同じ貴族に対して、平民ほどは無茶をしないでしょうからね」


「それでもあれほど増援が多くては、各部隊の指揮官が持て余します。城外部隊には封鎖の指示しか出していませんし……」


「手が余りだすとまずそーですね。特に、流れに乗って支持を集めた人が独立した動きをはじめると……」


 市街地側の正門から、言い争う声が大きくなってくる。



「我々を入城させないとは何事ですか!? 王族が勇士団の信頼を失った今、多くの名門貴族が我ら聖神教団へ仲裁を願い出ているのです! 寛容なる我らは、勇士団の共同管理を役員席と予算の半分で引き受けようというのに……」


 肥え太った神官長とその侍従たちが、城門を封鎖する下級勇士たちへ詰め寄っていた。

 リルベルは城壁上からのぞき、げんなりした顔をする。


「神官長様は騒ぎにつけこんで、勇士団がらみの利権をせびるだけですか」


「盛り上がっているウェイストリームくん支持派の代表みたいな顔をして、論点を国王様と教団の対立にすりかえようと必死ですねー」


 神官長の侍従たちは次第に声を荒げ、甲術で押しのけようとする。


「貴様らごときでは話にならん! 平民傭兵ごときが指図するでない!」


 周囲の群衆が非難の声を上げはじめると、護衛は杖術の弾丸までばらまきだす。


「誰が貴族や神官の権威までないがしろにしていいと言いましたか!? 国政の改革はしかるべき身分の者へ任せ、平民どもは今すぐ解散しなさい!」 


 神官はたった数十人だが、その全員が下級勇士以上の魔法を使い、何十倍もの人数を蹴散らしてゆく。


「ふん、愚かな! 我ら上級神官は血筋に優れ、騎士のような総合力こそなくとも、一方面ではそれに匹敵する能力を持つ者も多いのです!」


 十数人の中級勇士が駆けつけて立ちふさがると、神官長は侍従を抑えて前に出るが、説得ではなく巨大な光の壁をたたきつけた。

 突き飛ばされた勇士たちは全身打撲にうめいて転げまわる。


「私も連発などはできない持久性ですがね。短時間、少ない回数であれば『甲術最強』にも匹敵する魔法を使えるのですよ!? 代々の神官長は、王族の傍流でも特に優れた者が受け継ぎ、聖神ユイトエルブ様のご意向を代弁する至高の指導者! 身分の差をわきまえなさい!」


 一喝した神官長と侍従と護衛がまとめてはね飛ばされる。

 さらに巨大な光の壁が広げられ、その中心では長い黒髪の女神官がデューリーフを背負ったまま、丸盾をかまえていた。


「私もわずかな時間に限れば『甲術最強より上の魔法』を使えますが、これしきの魔法がどれだけ、我々を楽園へ導く役に立つというのです? あなたがたこそわきまえるべきです。高校生活の啓示も受けられなかった身で『恵太様』のご意向に逆らおうなど……!」


 上級神官クリアレイクは朗々と説諭するが、神官長たちは複数骨折の激痛で息も身じろきもできず、次々と気絶していた。

 リルベルは城壁上から神官長を狙撃するつもりで杖をかまえたまま、口を開けっぱなしになっていた。


「クルイアレイクさんは、親御さんをかばって戦死した平民傭兵がいたとは聞いておりましたが……」


「でもそれって清湖きよこちゃんが生まれる前の話ですから。罪悪感だけ押しつけられて孤児院を継いで、これといった希望や救いがない状況でしたから、いろいろ溜めこんでそうですねー?」


「すたれゆく家芸だった『鞭術』を生真面目に継ごうとして、しすぎてぶっこわれた真鶴まつるさんの同類でしたか」


 リルベルは新興宗教家クリアレイクが集める拍手や賞賛の多さにおびえる。


「前世があるなら! 異世界の楽園が実在するなら! それを直接に感受できる資質こそ、聖神ユイトエルブ様の御心にかなった指導者ではありませんか! 最も早く前世に覚醒した『恵太様』こそ『新たな聖神帝国』の創始にふさわしい救世主です!」


 常軌を逸した妄言への反論は、背負われている赤毛少女の「落ち着けオバハン。いくら若く見えても青春をやりなおしていい年じゃねーだろ!?」くらいだった。



 リルベルはひとりで城内へ駆けもどりながら、頭をかかえていた。


「なんということじゃ~。よもや恵太どのひとりの異変が、ここまで広がってしまうとは~。というかなぜ、いまだに治らんのじゃ~?」


 ふと横を見ると、いつの間にかウィンシーが並んで駆けていた。


「なおってないの?」


「え……え? …………あれ?」


 ウィンシーはコクコクうなずく。


勝海かつみどの……手伝ってくださるかのう?」


 ウィンシーはコクコクうなずいたあと、片足だけつかんで吊るした少年を見せる。


「これいる?」


「決して捨てないように。というかもっと丁重に扱ってくだされ」


 窓から放り投げられそうだった第二王子バンブートゥは気絶しており、実の姉はとっさにしがみついた。



 巨大縦穴のフラットエイドたちは『深淵勇士隊』を捕縛すると、螺旋階段を駆け上がる。


「まさかゴルドエイトどのが裏切るとは! 騎馬部隊で囲んでも『狂風』ならば城壁をよじのぼって脱出しかねん! 下手をすれば城内へ侵入も……なんとしても、その前に刺し違える!」


 しかし地上へ出るとボロボロになった騎馬隊の姿のみで、門も閉じられたまま、城壁の上にも動きがなかった。


「もしや……怪物馬がすでに食いきってしまったのか?」


 騎馬隊の隊長たちは青ざめた顔で首をふる。


「いや、城を占拠されたようだ」


「貴殿はなにを言っているのだ?」


 突入口広場を囲む王城のあちこちから、奇妙な騒ぎ声が聞こえていた。


「我々のほうが閉じこめられてしまったのだ。今ごろ第二階層の通路も……」


 カメリア王女とフェアパイン王子も巨大縦穴から登ってくる。


「なにがどうなっているのです!?」


「厩舎や補給所からも、王宮へもどれないと連絡が……なにがあった?」


 報告を裏づけるように、城壁上へ勇士団が姿を見せはじめる。


「こちらが逆に閉じこめ……ですって? ならばこちらも地下で援軍を待って……」


「カメリアよ。騎士団は何倍の人数を入れたと思っている? 補給が一日でも途絶えたら……」


 王女と王子の言葉はそこで途切れ、フラットエイドは呆然とした顔でつぶやく。


「それに騎士団は、狭い地下や長期の戦闘を苦手としております……こうなればもはや、選べる手段は……」


 巨大縦穴の底から、かすかな震動が届く。


「……あれこそは聖神様の怒り。我々が正しければ、必ずや味方となってくださるでしょう」


 カメリア王女とフェアパイン王子は、追いつめられた神官少年の暗い眼光を恐れる。


「下賎なるギブファットめ……せいぜい一瞬の栄光に酔い、思い上がっているがいい!」



 そのころギブファットは王宮内の暗い密室で椅子に縛られ、ウィンシーとリルベルと拷問器具一式を見比べていた。


「おい待て。俺はお前らのためにしかたなく『恵太』のふりを続けて……待て! だから待てってば!?」




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