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第19話 最強の部隊は最強の苦悩と対峙する 1


 国王アームワイドの弟、騎士団長ウェイブライト将軍が天高くきりもみ回転して怪物馬に激突し、地面に落下し、ひづめで踏まれそうになり、騎馬隊は大騒ぎになる。

 ワラレアはまだ目の前の事態に思考が追いつかない。


「な、なにをやっているのだ勝海かつみ……?」


「運動会」


「待て勝海。高校では体育祭と称するのが普通で……いやそれより、こんな目撃者だらけの中、誰を殴り飛ばしたと思って……」


波照なみてる教頭」


「それでどうなると思って……」


「生徒の自主性が尊重される?」


「そんなわけあってたまるか!」


 しかし勇士隊の多くは、ウィンシーの暴挙へ喝采を贈っていた。


「さすが勝海さん! 俺ら運動部のエースストライカーだぜ!」


 ギブファットのごとき妄言まで叫ばれている。


「今のは『玉入れ』という種目か?」


「それってボールボウガンを使う競技じゃないのか?」


「俺の解釈が正しければ『お礼参り』という競技だな。採点方法までは知らないが、インターハイは確実な仕上がりとみた!」


「勇士団の意地に賭け、騎士団チームに負けるわけにはいかんな! これが体育祭ならば!」


 同調した盛り上がりがワラレアの血色を奪ってゆく。

 騎馬隊は倒れたウェイブライト将軍をかばって運んでいたが、その内のひとりが叫び、全隊へ恐慌が広がる。


「ゆ、勇士団の反逆だ~あ!?」


 王立地下迷宮を囲んでそびえる城壁の上で、半鐘が打ち鳴らされた。

 リルベルはそれを見回し、呆然とつぶやく。


「竜のように『強大な魔物』が『大量に襲来した』規模の災害を知らせる鳴らしかたじゃのう」


 ワラレアはどうやって脱出するか、そして内乱という罪状からどう距離をとるべきか、考えがまとまらない。

 少なくとも、もはや勇士団の首位争いどころではない。


 強行突破は難しい。

 もし竜の大群が迷宮から出ても、市街地までは侵入させない基準で増強され続けた城壁だった。

 間もなく弓矢と弩砲の大部隊が配置につくはずだった。

 無駄に声が大きい金髪少年にすべての責任をなすりつけて差し出したいが、あの箱入り道化はよりにもよって騎士団長の息子であり、継承権第六位という国王の甥でもあり、あつかいをまちがえれば結局、聖神帝国そのものを敵にまわしかねない。


「みんないったん、地下へ退避するんだ! 水希みずきさんのいうとおり、そんな簡単に僕らの自主性が尊重されることはない!」


 しかもそのボケボンボンは勝手に勇士団の代表のごとく指揮をとっているだけでなく、ワラレアを主犯に巻きこむ激しく余計な口ぶり。


「水希さんも早く! いくら最強の『甲術』があるからって……副部長のあなたは、みんなをかばって倒れていい人ではないのです!」


 貴様は早く倒れて口を閉ざせ……とワラレアは心中で叫んだが、今は前方の騎士団の敵意だけでなく、後方の勇士団の熱狂も恐ろしい。


「アタシは委員長も来るまで避難しないからね!?」


 今までろくに話したこともない連中まで、ギブファットのように狂気を輝かせた目で笑いかけてくる。


「これは避難訓練じゃなくて、マジの集団下校だろ!? クラス委員長がさぼってどうすんだよ!?」


「いや帰宅ではないから、下校というより……集団学童疎開か? どっちにしろ、早く来いよ委員長!」


 ろくに文字も読めそうにない粗野な中年男や、以前に態度が気にくわなくて縦穴へ蹴り落としたはずの貴族青年まで体を張り、弓矢からワラレアを守ろうとしていた。

 城壁の上へばらばらと狙撃者が配置へ急ぐ足音が聞こえてきて、ワラレアはあせる。 


「い、いいからさっさと避難しろ! クラス委員長は最後尾と決まっているから、貴様ら全員が進まねば動けないだけだ!」


 一時しのぎで、同調したふりをしておく。

 しかし演技のはずが、なぜか本気で怒鳴ってしまい、涙がにじみ、どこかで喜んでいる自分も感じてしまい、くちびるをかんで感情を押し殺す。



 大勢の勇士たちが螺旋階段を引き返し、浅い階層の補給所へ避難する。

 地上に残る最後尾はギブファットをのぞく『狂風』と『蒼天』の三人ずつだが、リルベルは不意に顔を上げる。


「勝海どのはすぐに第三階層へ! 勇士は騎士団衛兵などにケガをさせぬよう通達を! えーと……『スポーツマンシップのフェアプレイ精神』とかで!」


 ウィンシーは指示の途中から駆け出していた。

 縦穴へ飛び降りながら、聞き終わるとコクコクうなずく。


「第二階層も暴動の阻止を……鳩亜はとあどのと法見のりみどのに頼めまいか?」


 リルベルが珍しく真顔で頼みこみ、ダブデミとローシーはウェイストリームのうなずきを確認して駆け出す。


「このとおり、なるべく穏便に話し合いたいのじゃ。どうか騎士団の皆様も早まらぬよう、お願い申し上げたい」


 騎馬隊の隊長たちは短く意志を確認し合い、城壁の上へ指示を送る。

 射手たちは配置についたままだったが、向けている矢は下ろされた。

 リルベルは腰低く対応していたが、隣には『帝都最強の甲術』を置いたまま、何十人もの弩砲部隊に匹敵する杖も手にしたまま話しているので、ワラレアは『フェアプレイ精神』とは遠い気もしたが、もちろん指摘などしない。

 勇士団では免疫が広まってきた『帝都最悪の人格破綻者』の姿や視線も、騎士団が相手であれば、まだかなりの効果が残っていた。


「さすが小鈴こすずさんは恵太がマネージャーとみこんだ女子だな」


 ウェイストリームのバカ正直な尊敬の眼差しは、ワラレアの神経を逆なでする。


「代表者を立てて話し合いたい。地下の騎士団兵士の身柄は僕が責任を持って守ろう。そちらも勇士団の家族の安全は、早めに約束してほしい……と、父上が起きたら伝えていただきたい」


 それでもボンボンなりに、王族らしく堂々と落ち着いた態度に限っては、多少の頼もしさも感じる。


「それと僕も王位継承の立候補を決めた。今日の僕の発言はすべて、未来の聖神帝国に必要な指針として、騎士団のみんなにも検討をお願いしたい」


 去り際で最悪に余計なひとことがつけ足された。



 ワラレアはリルベルをかばって螺旋階段を降りつつ、暗くボソボソとつぶやく。


「騒動の原因が、継承争いをかきまわした貴様の態度だと、まだ自覚してなかったのか?」


「な……? そうだったのか? どうも僕はまだ、そのあたりの認識が甘いようだな。そういったことも学んでいかなければ……ばっ!?」


 ワラレアはつい、目の前の金髪をわしづかみにして、握力と魔力の限りに絞めつけていた。


「そんな時間もなく掃討されかねない状況だから、今すぐ察しろ」


「ま、待ってくれ。人には得手不得手があり、個性を尊重した進路希望を提出すべきだろう?」


「ならば貴様はもう、勝手に余計なことは話すな。私か小鈴か……法見の表情を確認しながら言葉を考えろ」



 第二階層の補給所へ入ると、勇士たちが指示を求めて集まってくる。

 ワラレアから見て、地下の勇士団で正気と確信できる人材はとぼしく、知性や信用も含めて頼れそうな相手は『帝都最悪の人格破綻者』リルベルだけになってしまう。

 次いで『蒼天』でもローシーであれば、今でも『狂風』への敵視が露骨とはいえ、事態の収束という目的が一致するなら、その頭脳と常識感覚は貴重だった。

 リルベルとローシーのふたりであれば、第三階層以下の指揮を全面的に任せることができた。

 ただしふたりが近づきすぎると、ローシーの冷静さが崩壊する。

 ダブデミは味方になられても不安な人材だったが、ふたりの間をとりもつ役くらいには使えそうだった。


 今やギブファットに加えウィンシーも巨大な火種になっており、ワラレアは両者の手綱を独りで握りつつ、ウェイストリームも監視していた。

 本来なら、自分の分身がもう十人はいなければ抑えきれる連中ではない。

 しかしウェイストリームがいくら箱入りの世間知らずとはいえ、うわついた社交で培った広い人脈は統制の役に立った。


「王城とつながる騎馬牧場方面は『渦潮うずしお勇士隊』と『濁流だくりゅう勇士隊』で、縦穴は『断崖だんがい勇士隊』と『絶壁ぜっぺき勇士隊』が中心になって見張りを頼む。地下の人員はこの補給所へ集め、騎士団に攻撃されないように、攻撃しないように、徹底してくれ」


 言葉の途中、ウェイストリームはちらちらとワラレアへ視線を向ける。

 しかしワラレアの他部隊に関する知識は「どう蹴落とし絞り取るか」に必要な短所や弱味に特化しており、活用に必要な長所や人間性などは記憶していない。

 そしてあえて口を出さずとも、ウェイストリームの指揮配置は迅速で、部隊の適性も合っているらしかった。

 けばけばしい紳士ぶりも不安を抑え、暴発を遠ざけている。

 なにより、無駄に前向きな能天気が希望を持たせて……


 ……それはいいのだが、ワラレアはだんだんと、場にいる各隊代表の視線が自分へ集まってきてあせる。

 ウェイストリームは、視線をいちいちワラレアへ向けすぎていた。

 たしかに『表情を確認しながら言葉を考えろ』とは言ったが、いちいち笑顔でうなずき返せとは言ってない。

 しかもほかに相談役として挙げたリルベルとローシーがこの場にいないため、集中しすぎていた。とても嫌な誤解を受けている気がする。



 不安どおり、指示を受けた部隊がいくつか、ワラレアへ寄ってくる。


「あの、水希さん。衛兵詰所の奥にも出入り口があるんで、もう少し増援を頼めませんか? ……あ、大会合宿中は副部長って呼ばないとまずいですかね?」


 大規模な反逆事件に入りかけた状況で、その集団の副官のように扱われている。


「ばかっ、そんなことを水希さんに聞いちゃだめだろ。副部長は道流みちるさんへの指示や相談で忙しいだろうから……ほら、道流さんは部員をまとめる人気はあるけど、部活経営みたいなのは苦手そうだから、実際はぜんぶ……な?」


 黒幕のような扱いまで広まってきた。


「ま、待て。部長は恵太だし、私はただ『道流と父親の仲たがい』を解消させたいだけで……」


 自部隊の同僚による『騎士団長への襲撃』という重大事件から話をずらし、上流貴族の親子喧嘩という小さな騒動にすりかえなければ、比喩ではない死活問題になる。

 そこへ見張り役の伝令が駆け込んでくる。


「厩舎の正面から波照なみてる教頭が来ています!」


「三者面談の進路相談か! やってやろうぜええ!」


 すかさずギブファットが煽動をはじめてしまい、勇士たちが無駄に盛り上がる。


「おー」


 ウィンシーは相変わらず眠そうな無表情だったが、なぜかウェイブライト将軍への反感は長続きしていた。

 そして棒読みのかけ声でも、場の熱狂を悪化させてしまう。


「部長とエースがやる気だ! すごい授業参観になりそうだぜ! ヒャハー!」


 制御できない大歓声に包囲され、帝都一とされる『冷酷残忍』の背筋がみるみる凍りつく。




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